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  • 2022/03/22
  • コラム
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会長 栗田 誠のコラム更新「Booking.com事件の確約計画認定」

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Booking.com事件の確約計画認定(2022年3月16日認定)

1 公正取引委員会が2022年3月16日,Booking.comに対する確約計画の認定を公表した。宿泊予約サイト運営事業者3社に対し,宿泊施設運営業者との契約における同等性条項(最恵待遇〔MFN〕条項ともいう)が不公正な取引方法(拘束条件付取引)に該当する疑いがあるとして立入検査が行われたのは2019年4月10日である(報道による)。半年後の同年10月25日には,3社のうちの楽天に対する確約計画の認定が行われたが,その後長らく特段の動きが見られなかった。今回のBooking.comの決着により,残るはExpediaのみとなった。
確約手続第1号として早期の問題解決のメリットが強調された楽天事件の処理とは異なり,今回は立入検査から3年近い審査期間を要しており,確約手続の趣旨に沿った処理とは言い難いように思われる。

2 宿泊予約サイト運営事業者による「同等性条項」とは,宿泊施設運営業者との間で締結する契約において「宿泊料金及び部屋数については,他の販売経路と同等又は他の販売経路よりも有利なものとする条件」(楽天事件公表資料)を付す条項のことである。同等性が求められる内容としては宿泊料金及び部屋数,同等性を比較する競合先としては「他の販売経路」全て,すなわち競合する宿泊予約サイト及び宿泊施設運営業者の自社サイトの両方を対象としていることになる。
こうした同等性条件のうち,競合する全ての販売経路との同等性を要求する条件を「ワイド同等性条件」,競合する宿泊予約サイトとの同等性を要求する条件を「ナロー同等性条件」という。大雑把に整理すれば,「ワイド」については競争制限効果が強く,競争法違反となるが,「ナロー」については相対的に弊害が弱く,宿泊施設運営業者によるフリーライド(宿泊予約サイトで情報を得た予約希望者を自社サイトに誘導して直接予約を獲得すること)を防止する上で必要となり得ることから,欧州諸国においても直ちに競争法違反とはいえず,あるいは確約による禁止の対象から除外されてきている(例えば,伊永大輔・寺西直子・小川聖史「連載講座 デジタル・エコノミーと競争法 第4回 最恵国待遇(MFN)条項と競争法」公正取引808号45頁〔2018年〕参照)。
楽天に対する認定確約計画では,「宿泊料金及び部屋数については,他の販売経路と同等又は他の販売経路よりも有利なものとする条件を定めている行為を取りやめること」(楽天事件公表資料)とされており,担当官解説(公正取引832号80頁)では,ナロー同等性条件も禁止される旨示唆されている(なお,この点に関し,平山賢太郎「楽天株式会社から申請があった確約計画を公取委が認定した事例」新・判例解説Watch No.70〔2020年5月22日掲載〕注16も参照)。
これに対し,今回のBooking.com事件では,違反被疑行為が「宿泊料金及び部屋数について,他の販売経路と同等又は他の販売経路よりも有利なものとする条件(ただし,当該契約において定めている,当該宿泊料金について自社ウェブサイト等の販売経路と同等又は当該販売経路よりも有利なものとする条件〔以下「宿泊料金のナロー同等性条件」という。〕を除く。)」を定めていることとされており(同事件公表資料2),宿泊料金について宿泊施設運営業者の自社サイトとの同等性を要求する条件(宿泊料金のナロー同等性条件)は確約手続による処理の対象から除外されている。この除外については,「契約において定めている宿泊料金のナロー同等性条件について,当該宿泊施設運営業者によって必ずしも遵守されていない現状から,確約手続による処理の対象としなかった」と説明されている(同事件公表資料6)。
拘束条件付取引の行為要件(拘束性)自体が充足されていないということかもしれないが,行為要件を含めて違反の疑いのある行為を早期に是正するのが確約手続であり,除外の妥当性や説明の適切性・十分性には検討すべき点があると思われる。ナロー同等性条件について「ただ乗り」問題に言及する報道もあり(3/17朝日),実質的な説明が求められる。
*朝日新聞デジタル(3/16 18:23)では,更に詳しく次のように報じており(下線追加),公表資料では全く言及されていないことがプレスには説明されていることを伺わせる。
「公取委は今回,調査の結果,「ただ乗り」の影響は限定的だと判断。問題性があると結論付け,同社にも伝えた。(改行)一方、日本では条項を守らずに価格を決める施設が多く、同社も厳格に対応しておらず、「現状は問題ない」と説明。撤廃を求めて同社と争えば解決に時間がかかるとして、同社が今後、対応を変えれば厳正に対処するとしている。(改行)担当者は「事業者の価格設定を拘束する行為には特に厳しい対応が必要になるという考えを示した」と話し、自社サイトの価格について圧力を受けているとの情報があれば、提供してほしいとしている。」
宿泊料金のナロー同等性条件の除外が本件処理のポイントであり,楽天事件と同様にナロー同等性条件も禁止したい公正取引委員会と,ナロー同等性条件が多くの法域で容認されている(前掲伊永ほか50頁参照)として難色を示すBooking.comとの折衝が難航し,審査が長期化していたのではないかと思われる。結局,宿泊料金のナロー同等性条件については確約手続の対象外とし,将来の審査の余地を残すことで公正取引委員会が譲歩した,ということかもしれない。公正取引委員会がBooking.comに対して行った確約手続通知において,「違反被疑行為の概要」として初めから宿泊料金のナロー同等性条件が除外されていたのか,気になるところである(確約手続に関する相談により事前に決着していた可能性も高いが)。

3 Booking.com事件の公表資料3は,「違反被疑行為による影響」として,宿泊料金に係る同等性条項による影響について,「当該宿泊施設運営業者は,…例えば,Booking.comサイト以外の宿泊予約サイトに掲載する宿泊料金をBooking.comサイトに掲載するものよりも引き下げた場合,引き下げた宿泊料金と同等又はそれより低額の宿泊料金をBooking.comサイトにも掲載する必要が生じることとなる。」「このため,Booking.com B.V.の…行為により,同社と競争関係にある宿泊予約サイトの運営業者において,例えば次のとおり,自らの事業活動に影響が生じた事例が認められた」として,2例を挙げて説明している。
同等性条件がもたらし得る競争効果は多面的であり,例えば,アマゾンジャパン(マーケットプレイス同等性条件)事件(2017年6月1日公表:自発的改善措置による審査終了)の公表資料では,次のように整理されている(下線追加)。
「電子商店街の運営事業者が出品者に価格等の同等性条件及び品揃えの同等性条件(別紙参照)を課す場合には,例えば次のような効果が生じることにより,競争に影響を与えることが懸念される。

 [1] 出品者による他の販売経路における商品の価格の引下げや品揃えの拡大を制限するなど,出品者の事業活動を制限する効果
 [2] 当該電子商店街による競争上の努力を要することなく,当該電子商店街に出品される商品の価格を最も安くし,品揃えを最も豊富にするなど,電子商店街の運営事業者間の競争を歪める効果
 [3] 電子商店街の運営事業者による出品者向け手数料の引下げが,出品者による商品の価格の引下げや品揃えの拡大につながらなくなるなど,電子商店街の運営事業者のイノベーション意欲や新規参入を阻害する効果」
また,有力な宿泊予約サイト運営事業者3社が並行的に同様の同等性条件を付しているとみられる本件では,宿泊施設運営事業者間の料金競争への影響も考えられる。
前述したとおり,今回のBooking.com事件の公表資料では,宿泊料金に係る同等性条件が及ぼす競合宿泊予約サイト運営事業者に対する影響のみに言及している。宿泊料金のナロー同等性条件が確約手続の対象から除外されたこともあり,このような説明になっている面もあると思われるが,物足りなさが残る。もっとも,楽天事件の公表資料では一切説明されていなかったことからすれば,一歩前進といったところかもしれない。

4 米国製テニスラケット「ウィルソン」の輸入総代理店による並行輸入妨害事件(2020年9月9日立入検査報道)について,確約認定申請がなされたと報道されている(3月15日)。単独行為については排除措置命令を行うことはもはや想定されていないのかもしれない。今後も多用されると見込まれる確約手続について,制度及び運用の改善が望まれる。栗田誠「独占禁止法上の確約手続の課題」同志社法學73巻6号317-353頁(2021・12・31)参照。

 

 

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