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  • 2021/11/24
  • コラム
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会長コラム更新「公正取引委員会の非公式措置」

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1 11月18日に「アジア競争協会(Asia Competition Association:ACA)」という,日本,中国及び韓国の競争法関係の弁護士や研究者で組織する団体の年次会合がウェブ方式で開催されました。因みに,現在の会長は上杉秋則氏が務めておられます。今回の会合では,次の3つのセッションが組まれ,日中韓のそれぞれのパネリストからの報告と討議というプログラムです。いずれのセッションでも,デジタル経済に対する競争法の取組を考えることがモチーフとなっています。
 セッション1 デジタルプラットフォームによる支配的地位濫用の規制
 セッション2 デジタル経済における企業結合規制の市場画定と競争制限効果の認定
 セッション3 ソフトな是正措置手続(確約と調停に関連する課題)
 私は,セッション3において「独占禁止法による公正取引委員会の非公式措置―法執行機関の死?(Informal Measures by the JFTC under the AMA—Death of Law Enforcement Agency?)」と題して報告しました。今回は,私の報告の概要や会合の感想を紹介します。

2 私の報告では,公正取引委員会(公取委)が,①違反事件審査よりむしろ,実態調査手法を多用していること,②違反事件審査を行う場合にも,排除措置命令ではなく,確約計画認定や自発的措置による審査終了といった措置を多用していることを指摘し,これでは法執行機関としての死を意味するのではないかという問題提起をしました。公取委が重点的に取り組んでいるデジタル分野における活動は現下の世界的傾向にも合致し,大きな成果を上げていると評価されていると思います。しかし,その内容を見ると,問題点の迅速な解消を優先し,その前提となる事実認定や競争上の弊害の把握,法適用等に関する詰めが十分ではなく,少なくとも公表資料からはそれらを十分に伺い知ることはできないと感じます。
 実態調査手法の現状や問題点については,最近の会長コラム「公正取引委員会の『実態調査』手法と『市場調査』の制度化」(2021年10月26日掲載)において詳述していますが,デジタル分野では様々な取引形態や細分化された分野に関する実態調査が行われてきており,また,クラウドサービスやモバイルOSなど,新たな調査の開始が公表されています。違反事件の処理についても,会長コラム「アップル(リーダーアプリ)事件(公取委令和3・9・2公表)」(2021年9月7日掲載)においてアップル事件(自発的措置による審査終了)を検討する中で論じていますが,あらためてここ数年のデジタル分野の違反事件を概観すると,排除措置命令は皆無であり,確約計画認定又は自発的措置による審査終了が目立ちます。AmazonやAppleの事件も含まれており,グローバル企業(ないしはその子会社)を相手に一見大きな成果を上げているように受け止められがちですが,中途半端,腰砕けという評価もできるでしょう。
 なお,アップル事件について,公正取引853号に担当官解説が掲載されていますが,それを読んでも,なぜ排除措置命令や確約の手続が採られなかったのかを理解することはできませんでした。

3 公取委自身も,法適用(違反認定による排除措置命令・課徴金納付命令)に至っておらず,不十分な(妥協的な)処理になっているのではないかという批判を気にしているようです。例えば,確約計画認定事例に関する担当官解説には,排除措置命令では従来命じられていない措置が迅速に採られていることを強調する記述が目立ちます。また,従来,実態調査報告書を公表して関係事業者の自発的改善に委ねるにとどまることが多かった実態調査手法について,関係事業者に対して明示的に見直しとその結果の報告を要請するという対応を採り,その旨公表するという積極的な動きが増えているように感じます(コンビニ本部と加盟店との取引,携帯大手3社と販売代理店との契約)。
 最近では,公取委の古谷委員長が10月28日の記者との懇談会において,デジタル分野への取組を紹介される中で,独占禁止法の適用以外の手法,すなわち,事件審査における確約手続や事業者の自発的措置による審査終了,実態調査を踏まえた問題指摘・改善要請といった手法が,リソースの制約の中で,デジタル分野のような変化の激しい分野における迅速な問題解決に資することを強調しておられます。これも,公取委の現状や方針を率直に説明されたものと受け止めました。
 なお,古谷委員長は,「実態調査などのアドボカシー活動で得た知見や経験を法執行に反映させていく取組も大事だと考えています」(公取委ウェブサイトから引用)とも述べておられ,この点は,実態調査手法の「制度化」を提言する私見と通じるものがあると思います。しかし,これまでの公取委の実態調査報告書の末尾の「今後の取組」には,「独占禁止法上問題となる具体的な案件に接した場合には,引き続き厳正に対処していく」旨の定型的な記述が常に含まれていますが,実際には,実態調査を基にして違反事件審査に発展させるという発想は公取委には乏しかったように感じます(なお,適正手続上の問題点も考えられます)。

4 公取委が規制分野を巡る独占禁止法・競争政策を巡る問題に対して,違反事件審査ではなく,実態調査や研究会による検討・報告書の公表という手法を用いてきたことは広く知られています。規制分野における違反事件は限られており,しかも,その結論は警告等の非公式措置に限られていました。これを大きく変えることになった事例がNTT東日本事件やJASRAC事件であり,いずれも最高裁判決に至った歴史的な事案です。しかし,その後の公取委の規制分野に対する違反事件審査は再び停滞して今日に至っていると思われます。
 公取委は,規制分野と同様,デジタル分野でも実態調査手法を活用し,違反事件審査を行う場合にも,排除措置命令に拘ることなく,早期の実際的な問題点の解消を優先させる方針を採っていることは前述のとおりです。バランスの問題かもしれませんが,より事件審査手法を活用し,排除措置命令を目指す活動を期待したいと考えています。

5 ACAの会合では,韓国公正取引委員会(KFTC)や国家市場監督管理総局(SAMR)による積極的な法適用事例・制裁措置事例が報告されました。欧州委員会による活発なGAFA規制や米国競争当局や私人による審査・提訴が相次いで行われ,裁判所の詳細な判決が出てきていることもご承知のとおりです(米国連邦地裁のEpic Games v. Apple判決やEU一般裁判所のGoogle(Shopping)事件判決)。それに対して,我が国における状況は真逆です。「実際的な是正措置が迅速に講じられるのだから,安上がりでよいではないか」,そんな声が聞こえてきそうです。
 ACAの研究会合の閉会挨拶では,中国のSAMRの独占禁止局を格上げして「国家独占禁止局」が当日(11月18日)に発足したというニュースが紹介されました。中国や韓国の競争法コミュニティの勢いについては,2年前にも会長コラムで論じたところです(「会長コラム「韓国及び中国の競争法コミュニティの勢い」(2019年10月28日掲載)。日本は,競争法の分野においても韓国や中国を追いかける立場にあることを自覚する必要があります。そして,現状のままでは,彼我の差は拡大するばかりです。公取委の非公式措置の多用・依存を見直すことが必要ではないかと改めて感じたACAのウェブ会合でした。

 

 

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