研究講座とイベント

  • 2021/10/04
  • コラム
  •  

 

会長コラム更新「米国反トラスト当局の近況」(2021.10.4)

一覧を見る RSSフィードの購読はこちら

 

競争法研究協会会長 栗田 誠
 このところ,公正取引委員会からの違反事件関係の発表がほとんどなくなっていることを大変危惧しています。令和3年度(2021年度)上半期における処理結果公表事件は,アップル(リーダーアプリ)事件(令和3・9・2自発的改善による審査終了)の1件にとどまりました。9月10日に令和2年度の年次報告が国会に提出され,公表されましたが,確約計画認定事例が6件あり,法的措置は全部で15件と,表面的には多く見えます。もっとも,そのうち,価格カルテル命令事件6件は愛知県立高校の制服の事件であり,高校ごとに事件処理されているために,いわば「水増し」された件数になっています。現状では,令和3年度の年次報告では紹介する違反事件がほとんどないという事態になりかねない危機的状況ではないかと思います。

 日本のことについて余り申し上げることがありませんので,米国の反トラスト当局の動きを少し紹介します(会長コラム「「直近の米国反トラスト法の動き―FTCを中心に」(2021.7.20)も参照」。まず,連邦取引委員会(FTC)では,6月15日にLina Khan委員長が就任され,精力的な動きを見せています。主だったものとして,次のような点が挙げられますが,多くは3名の民主党のFTC委員の賛成によるものです。

①「不公正な競争方法」の執行方針声明(2015年)の廃棄(7/1)
②FTCの法執行活動の優先度・審査権限付与に関する決議(7/1)
③FTCの規則制定権限の活用方針(7/1):FTCは1980年代以降,個別事件審査の手法を重視
④製品の修理制限への取組(7/21):5名一致
⑤合併審査手続に関する1995年方針の廃棄(7/21)
⑥Facebookに対する修正訴状の提出(8/19):6/28の地裁決定を受けたもの⑦垂直的合併ガイドライン(2020年・司法省と連名)の廃棄(9/15):司法省も見直しを公表
⑧FTCのビジョンと優先政策に関するメモの発出(9/22):Khan委員長単独
Khan委員長の強いリーダーシップの下に,次々と従来の方針が廃棄され,あるいは新しい考え方が提示されています。共和党のFTC委員からは,十分な検討時間が与えられないまま,多数決で物事を進めようとする姿勢に強い批判が出ています。また,Khan委員長は「FTCのイカロス」になるのではないかという論評もあります。イカロスとは,ギリシア神話に出てくる人物で,蝋で固めた翼によって自由自在に空を飛ぶ能力を得たものの,太陽に接近し過ぎて蝋が溶けて翼がなくなり,墜落してしまいます。人間の傲慢さが自らの破滅を導くという戒めと理解されていますが,Khan委員長の強引さ,性急さの行く末を危ぶむものです。また,これでは独任制の官庁と変わらず,独立行政委員会としての意味がないという指摘もあります。
反トラスト法の執行においては,経済分析の活用や判例法の制約もあり,党派性が薄れてきていると考えられてきましたが,ここ数年間の反独占のうねりは,在来の理論や判例には捉われない斬新さがある半面,もろさも併せ持っているのかもしれません。8月に連邦地裁に提出されたFacebookに対するFTCの修正訴状は,当初のものに比べて構成がかなり変わり,市場画定など明快な記載になっています。こうした実務的な積み重ねこそが重要なのであって,目新しい方針やアイディアを打ち出すだけでは何も生まれないようにも感じます。

 他方,司法省については,これまで目立った動きがありません。反トラスト局担当司法次官補(AAG)に指名されているJonathan Kanter弁護士の上院承認手続(confirmation hearing)がようやく今週始まるようです。9月下旬には,歴代の反トラスト局長9名が党派を超えて,Kanter氏の早期承認を求める書簡を上院に提出していました。Kanter氏は,Googleの競争相手の代理人としてGoogle批判を展開してきた弁護士ですが,承認に際して特段の問題はないだろうとみられています。

 FTCのKhan委員長に対してもAmazon等から忌避申立てがなされていますが,承認されればKanter反トラスト局長に対しても様々な申立てがなされると予想されることから,司法省内部で,あるいは上院司法委員会において十分なチェックが行われてきたものと思われます。
 10月13日から15日にかけてICN(International Competition Network)の年次会合がオンラインで開催されますので,それに間に合うとよいのですが,いずれにせよ,米国競争当局の両トップが揃い,フル稼働を始める日も近いと思われます。今後の動きが注目されます。

《参考1》米国におけるGAFAに対する反トラスト事件(公的執行のみ)
【Google】
①司法省及び11州が汎用検索・検索広告市場における独占行為について提訴(2020/10/20;審理は2023年9月からの予定)
②10州によるオンライン広告に関する提訴(2020/12/16)
③38州による検索エンジンに関する提訴(2020/12/17):ディスカバリー手続は連邦訴訟と併合
④37州による携帯アプリストアに関する提訴(7/7)
【Facebook】
①FTCが,Instagram 及びWhatsAppの買収とその後の独占維持行為(”buy or bury scheme”)についてDC連邦地裁に提訴(2020/12/9);連邦地裁の決定(6/28)を受けて,FTCが修正訴状を提出(8/19)
②州司法長官による提訴は却下されており,州側が控訴する見込み
【Apple】
 〇司法省がApp Storeにおける競合アプリの排除行為を審査中(2019年6月報道)
【Amazon】
 〇FTCがMarket Placeにおける利益相反行為(競合品の排除)を調査中

《参考2》Epic Games v. Apple事件連邦地裁判決(2021/9/10)
・ゲーム開発業者がApp Storeでユーザーにゲームを提供しようとする場合に,Appleが他のチャネルの利用を禁止するとともに,外部課金の利用も制限して,30%の高額手数料を徴収していることが問題となっている。
・地裁判決は,連邦やカリフォルニア州の反トラスト法違反(不当な取引制限,独占行為)は認定しなかったものの,カリフォルニア州の不正競争法違反として,アプリ開発業者がユーザーにApp Store外での支払方法の利用を促す誘導措置を用いることを禁止している行為を差し止める命令を下した。
・市場画定について,Epic Games が主張したAppleのApp Storeシステムだけでも,Appleが主張したゲーム市場一般でもない,「デジタル・モバイルゲーム取引市場(digital mobile gaming transactions)」を画定。Appleは同市場で55%以上のシェアを有し,高収益を上げているが,それだけで反トラスト法違反になるわけではないとし,結論的には,プライバー・安全保護のための措置として正当化理由があると判断。
・他方,30%の手数料は不透明で,ユーザーには高価格を,ゲーム開発業者には高費用をもたらしており,Appleはユーザーが代替的な支払方法を認知することを不当に妨げている(ユーザーのinformed choiceを妨げている)と判断し,「不公正な(unfair)」行為に当たると結論。
・Epic Gamesが求めた広範な差止は認めず,Appleが(ゲームアプリだけでなく)全てのアプリ開発業者によるリンク張り,メール連絡等により他の支払方法をユーザーに伝える誘導行為まで禁止している行為(anti-steering provisions)について,(Appleが主張したカリフォルニア州限定ではなく)全国ベースで差し止めるにとどめた。
・Epic Gamesは控訴する意向。Appleは反トラスト法違反が認定されなかったことを強調するコメントを出したが,不正競争法違反には言及せず。
★公正取引委員会によるアップル(リーダーアプリ)事件の公表資料(9/2)はわずか4頁であるが,米国の地裁判決は185頁あり,市場画定や独占行為の有無に関する詳細な事実認定と法適用が示されている。

 

 

ページトップへ戻る