研究講座とイベント

  • 2021/05/10
  • コラム
  •  

 

会長コラム更新「競争法・競争政策に関する新刊:『競争政策の経済学』と『競争法ガイド』」

一覧を見る RSSフィードの購読はこちら

 

競争法研究協会会長 栗田 誠

1 今回は,競争法・競争政策に関する新刊を2冊紹介します。タイプが異なる2冊ですが,是非ご一読ください。

2 昨年12月の月例研究会では,東京大学の大橋弘先生に「転換点を迎える競争政策―人口減少とデジタル化のもたらす課題と政策の方向性」と題してご講演いただきましたが,大橋先生は最近,『競争政策の経済学 人口減少・デジタル化・産業政策』(日本経済新聞出版・2021年4月)を出版されました。本書は,次のように構成されています。

序 章 転換点を迎える競争政策
第Ⅰ部 市場支配力と産業組織論
第1章 競争政策と産業組織論
第2章 経済の「寡占」化と競争政策のアプローチ

第Ⅱ部 競争政策が注目する産業分野
第3章 公共調達における競争政策
第4章 携帯電話市場における競争政策――アンバンドリングの効果
第5章 電力市場における競争政策――システム改革の評価
補 論 地球温暖化対策における競争政策の視点――再生エネ政策からの学び

第Ⅲ部 人口減少時代における競争政策
第6章 人口減少局面に求められる企業合併の視点
第7章 競争政策と産業政策の新たな関係

第Ⅳ部 デジタル市場における競争政策
第8章 デジタルカルテルと競争政策
第9章 デジタル・プラットフォームと共同規制
終 章 ポストコロナ時代に求められる競争政策の視点

  大橋先生にはこれまでにも,市場画定やデータ,デジタル経済といった,本書が扱っているテーマについてご講演をいただいてきております。このことは,本書で取り上げられている様々な政策課題に私どもではいち早く触れることができていたことを意味しますし,また,大橋先生におかれても思索を深める機会として当協会の月例研究会をご活用いただけたのではないかと拝察いたします。

大橋先生の新著の内容を詳細に紹介するだけの能力はありませんが,体裁こそ啓蒙書的なスタイルであり,読みやすく著述されているものの,内容的には正に研究書であると感じました。ここ10年程の間に発表されてきた研究論文を基に,実証分析や政策分析の成果を盛り込みつつ,競争政策が直面する課題を取り上げ,「競争政策を問い直す」本書は,独占禁止法や競争政策に関心を持つ者にとって必読の文献になることは間違いないと思います。同時に,独占禁止法の運用や競争政策の展開によって大きな影響を受ける企業やその関係者にとっても,本書を紐解くことで,今後の動向を予測し,適切に対応するための重要な手掛かりを得ることができると考えます。

3 産業組織論からの競争政策論の新刊書を紹介しましたので,次は,比較法的な観点からの競争法の入門書を紹介します。それは,比較競争法の泰斗David J. Gerber教授(米国Chicago-Kent College of Law名誉教授)の Competition Law and Antitrust, Oxford University Press, 2020の邦訳です(デビッド・ガーバー著/白石忠志訳『競争法ガイド』(東京大学出版会・2021年6月予定)。
特定の法域に囚われることなく競争法制度の目的や枠組,法域間の共通性と差異性,競争法の世界的潮流と変化の動向を概説する同書は,条文の細かな解釈論に陥りがちな独占禁止法のテキストとは異なり,競争法についての視野を拡げ,比較し,変化を予測する能力を高めてくれます。
本書にとって東京大学の白石忠志教授が最適の訳者であることも,『独禁法講義』の読者であれば直ぐに理解できることと思います。出版社のHPによれば,白石教授による解題も付されているようですので,私自身,原書を既に読みましたが,『競争法ガイド』の出版を心待ちにしております。

  ガーバー教授の著書の邦訳をご紹介したもう一つの理由は,当協会が2002年9月に,日本貿易振興会(JETRO)の支援を得て,北京で開催しました「『競争政策と経済発展』に関する北京会議」にガーバー教授も参加されており,私自身,教授の広い視野と深い学識に直接触れる機会を得ていたことにあります(会議の模様については,国際商事法務30巻11号(2002年11月)1535-1537頁で簡単に紹介しています)。それ以来,ガーバー教授の著作には必ず目を通すようにしてきました。その代表的著作がGlobal Competition: Law, Markets and Globalization, Oxford University Press, 2010であり,滝川敏明教授が公正取引718号(2010年8月)83頁で紹介されています。

4 本日ご紹介した『競争政策の経済学』と『競争法ガイド』は,今後の競争法・競争政策を考える際の必読書になるものと思います。当協会がこうした優れた著作に間接的ながらも多少の関わりを持ち得たことは大変光栄なことであり,あらためて両先生に感謝申し上げる次第です。

 

 

ページトップへ戻る