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  • 2021/04/17
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会長コラム更新「2020年度の審査事件の概況ー第286回月例研究会冒頭挨拶から(2021/4/16)」

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競争法研究協会 会長 栗 田 誠
1 前回3月の月例研究会以降の独占禁止法・競争政策関連の出来事について,いくつか簡単に紹介します。
 3月の月例研究会では確約手続の運用状況を取り上げましたが,3月中に新たに2件の確約計画認定事例が出ています。1件はBMWの輸入車の押し込み販売による優越的地位濫用が疑われた事件であり,もう1件はコンタクトレンズの価格広告やインターネット販売の制限の疑いであり,3社同時の立入検査事案で,最後の3社目の確約認定に至ったものです。
  従来,年度末や人事異動を控えた6月には比較的多くの審査事件の結果が公表され,排除措置命令が相次いで出ていましたが,近年では,審査期間が長期化していることもあってか,審査事件に関する発表は随分少なくなった印象があります。2021年(令和3年)に入ってからの3か月半で,審査事件関係の公表は,マイナミ空港サービスの課徴金納付命令(排除措置命令は昨年7月)と前述の確約認定2件にとどまっています。コロナ禍の審査業務への影響ということも気になる点です。
  また,3月末に「デジタル市場における競争政策に関する研究会」の「アルゴリズム/AIと競争政策」に関する報告書が公表されました。この報告書については,事務総長の定例会見(3/31)において興味深いやり取りがありました。記者から,この報告書が理論的な整理にとどまっており,公取委の実態調査や事件審査を期待する観点からの質問が出ています。それに対する事務総長の応答は,何とも歯切れの悪いものにとどまっているという印象を受けました。私も,月例研究会で公取委の動きを紹介する中で,「公取委には,実態調査ばかりやっていないで,審査事件をやってほしい」という思いを度々申し上げているわけですが,今回の報告書は,実態調査報告でもなく,その前の理論武装の段階ということです。新たな問題に対しては,走りながら考えるという姿勢も必要なように感じます。
今週の事務総長定例会見(4/14)では,クラウドサービスに関する新たな実態調査を始めるという発表があったと報道されていますが,是非審査事件にも力を入れてほしいと思います。今週火曜日(4/13)には,公取委が電力会社同士の大口顧客の争奪制限の疑いで立入検査を行ったというニュースが飛び込んできました。大変インパクトのある事件であると感じますが,審査の行方を注視したいと思います。

2 年度初めですので,2020年度(令和2年度)の審査事件の動向を簡単に振り返ってみます。2020年度中に公表された審査事件の処理状況を行為類型と措置区分により分類すると,次表のようになります。(※表;別途)

  2020年度の審査事件の状況について,次のような感想を持ちました。
①ハードコア・カルテルでは,独立行政法人地域医療機能推進機構医薬品談合事件の刑事告発と,これも刑事告発されたJR東海リニア中央新幹線品川駅・名古屋駅新設工事談合事件の排除措置命令・課徴金納付命令を除くと,小型の価格カルテル(制服)が2件にとどまりました。2019年度には大型の価格カルテル事件が相次いだことに比べると,少し寂しい状況です。

 ②排除型私的独占について,排除措置命令がJASRAC事件(平成21・2・27排除措置命令)以来,11年振りに出て,初めての課徴金納付命令も行われたこと(マイナミ空港サービス事件)は特筆 されますが,大阪ガス事件の処理(自発的措置による審査終了)には疑問もあります。

 ③優越的地位濫用事件が確約手続で処理される流れが明確になってきているように思われます。なお,ラルズ事件審決が東京高裁で全面的に支持されましたが(東京高判令和3・3・3〔請求棄却〕),他の係属事件を含め,今後どのように展開するのか注視する必要があると考えています。

④電通や日本プロ野球組織のような,社会的に注目された事件の処理が公表されましたが,その他の事件はどのように処理されているか気になります。

⑤法的措置(排除措置命令及び確約計画認定)は年間10件程度という状況にあります。また,全体に審査件数が減少してきているのではないかと感じられます。

3 世界に目を転じますと,Big Techに対する競争法審査の動きが目立ちます。米国やEUにおける動きについては,これまでも簡単に紹介してきましたが,ここへきて中国が自国のハイテク企業に対して強硬姿勢を見せています。中国国家市場監督管理総局(SAMR)が今月10日,ネット通販最大手のアリババに対して,出店企業に競争者との取引を禁止していることが市場支配的地位の濫用に当たるとして,約3000億円の制裁金を課したと発表しました。アリババ集団については,昨年から金融当局との関係も取り沙汰されており,今回のSAMRの処分も純粋に競争法の観点からのものなのか,様々な報道や論評もなされています。もっとも,アリババがSAMRの処分に異を唱えることはあり得ないわけで,この点は米国やEUにおいて厳しく,長い法廷闘争が展開されている状況とは様相が異なります。
  また,米国では,バイデン大統領が3月5日,競争政策担当の大統領特別補佐官にTim Wuコロンビア大学教授を任命し,連邦取引委員会委員にLina Khanコロンビア大学准教授を指名しました。両氏とも,企業分割も辞さないという強硬論者であり(米国では一般には使われない“anti-monopoly”という文言を常用する),Tim Wuの“The Curse of Bigness”(今月,邦訳『巨大企業の呪い』(朝日新聞出版)が刊行されました)やLina Khanの“Amazon’s Antitrust Paradox”はこの分野のバイブルのようになっています。40年前のレーガン政権下ではBaxter司法省反トラスト局長をはじめ,スタンフォード大学関係者が多数登用され,「スタンフォード旋風」と呼ばれましたが,バイデン政権下ではコロンビア大学が人材供給源でしょうか。

  日本でも,昨年制定された特定デジタルプラットフォーム取引透明化法が本年2月に施行され,4月1日には,アマゾン,楽天,ヤフー,アップル,グーグルの5社が同法の規制対象となる事業者として指定されました。今後,こうしたBig Techに対する独占禁止法をはじめとする各種の法令による取組がどのように展開していくのか,引き続き注目したいと思います。

 

 

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