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  • 2021/03/11
  • コラム
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会長コラム更新「最近の動きから」

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競争法研究協会 会長 栗田 誠
1 今月は,志田至朗先生に「確約制度」の運用状況と今後の展望について解説していただきます。確約制度の施行から2年余り経過しましたが,既に6件の確約計画認定事例があり,先週も,優越的地位濫用に係る審査事件について,確約計画の認定申請がなされたという報道がありました(BMWジャパン事件)。確約手続による違反事件処理は審査実務にとって極めて重要な意味を持つに至っており,認定事例がある程度蓄積された現時点で,これまでの運用状況を分析し,制度の評価や実務上の対応を考えておくことは極めて有意義であると思います。

2 振り返りますと,2005年(平成17年)の独占禁止法改正により事前審判から事後審判に移行しましたが,事後審判に対しては厳しい批判があり,また,審査手続上の問題点も指摘されるなど,独占禁止法の違反事件処理手続に関する様々な議論が行われていました。そうした中で,競争法研究協会では,伊従寛会長(当時)のイニシアティブにより,2008年夏に「独禁法手続研究会」を組織して集中的な検討を行い,同年10月に「独占禁止法違反事件処理手続意見書」を公表しています(意見書の全文は協会HPに掲載。その概要について,松下満雄「公正取引委員会審判制度改革の方向」NBL898号14頁(2009年)参照)。
私も,この手続研究会において「競争法違反事件処理における和解(略式)手続の現状と課題」と題して報告する機会をいただき,2005年改正後の独占禁止法違反事件処理手続が硬直的であり,米国反トラスト法の「同意(consent)」手続やEU競争法の「確約(commitment)」手続をモデルにした柔軟な和解的手法を導入する必要があることを指摘しました。そして,意見書の提言項目の一つに「略式の同意命令手続」の導入が含まれており,この意見書が先駆的かつ実践的なものであったことを示していると思います。
 実際に導入された確約手続の仕組みや運用は,意見書で提言していたものとは異なる面があり,重大な欠陥を抱えていると考えておりますし,また,個々の確約認定事例についても,月例研究会で配布している「競争法関連の動き」の中で批判的に紹介してきています。本日の志田先生の分析を伺い,私自身,あらためて考えてみたいと思っています。

3 前回の月例研究会以降の独占禁止法・競争政策関連の出来事について,いくつか簡単に紹介しておきます。
 まず,政府の「成長戦略会議」における競争政策の在り方に関する議論(2月17日)を紹介します。成長戦略会議の有識者委員である竹中平蔵氏のイニシアティブで始まった議論では,公正取引委員会による競争唱導(アドボカシー)の重要性が指摘され,公正取引委員会のアドボカシー機能の強化が必要であると強調されており,それ自体は適切なものであると考えています。市場における競争のルールである独占禁止法の執行だけでなく,その前提となる市場の構築や参入,イノベーション等に関わる競争政策の展開が重要であることは言うまでもありません。しかし,アドボカシーが法執行に代替できるわけではありません。伊従先生は,違反事件の個別的な処理の積み重ねを通したルール形成という判例法的な性格を独占禁止法が有していることを常に強調されていました。地道な違反事件審査ではなく,設計主義的・介入主義的な政策対応は副作用やリスクも大きいことに留意する必要があります。また,公正取引委員会がアドボカシーに力を入れる反面,法執行が二の次になってしまう事態も懸念されます。
 なお,成長戦略会議では,経済界の有識者委員から企業結合規制に対する注文が出ています。実効性を欠く企業結合規制が集中度の高まりをもたらし,参入障壁の形成につながっているのではないかという問題意識が世界的に強まっている中で,どこまで正当性を持つ議論であるのか疑問ですし,政策や制度を論ずる場において法執行問題を取り上げるセンスも理解し難いところです。

4 次に,法執行の関係で2点申し上げます。一つは,排除型私的独占に係る初めての課徴金納付命令が2月19日に出たことです。平成21年改正で導入されましたので,何と10年以上かかったことになります。空港における航空燃料の販売への新規参入者を排除しているという事案であり,排除措置命令自体は昨年7月7日に行われています(マイナミ空港サービス事件)。違反行為が続いていることから,排除措置命令に従って違反行為の取りやめ等の措置が採られたことで違反行為はなくなったと認められたことから,違反行為期間が認定され,所定の方法で計算された612万円の課徴金の納付が命じられました(なお,本件命令については,取消訴訟が提起されています。)。昭和52年改正で不当な取引制限の課徴金制度が創設され,その第1号の課徴金事件の審査を担当しましたが,小規模な価格カルテル事件で,課徴金の総額は500万円余りであったと記憶しています。小さな額でスタートした排除型私的独占に係る課徴金制度が,今後,EU競争法のように発展していくのか,それとも,確約手続その他の処理手法の多用により「抜かずの宝刀」になるのか,今後の運用に注目したいと思います。
  もう一つは,最後の審判事件となっていた段ボール価格カルテル事件の審決が2月8日に出て,係属する審判事件がなくなったことです。東京高裁に係属する審決取消請求事件で公正取引委員会に差し戻す判決が出る可能性もありますので,審判制度が完全な終焉を迎えたわけではありませんが,かつて審判官を務めた者としてはある種の感慨を覚えます。事前審判の時代を含め,公正取引委員会において何らかの総括が行われること,特に,なぜ審判制度が廃止されるに至ったのかを記録にとどめることを是非期待したいと思います。

 

 

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