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  • 2021/02/10
  • コラム
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会長コラム更新「2021年の競争政策~2021年最初の月例研究会冒頭挨拶」

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競争法研究協会会長 栗田 誠

1 本日(2/9)が2021年の最初の月例研究会となります。今回は上杉秋則先生をお迎えし,「山陽マルナカ事件東京高判の評価と今後の実務への影響」,「デジタル・プラットフォームを巡る最近の動き」の二つのテーマについてご講演を賜ります。上杉先生には,毎回,タイムリーな問題について理論的な検討と実務への影響の両面からお話しいただいていますが,今回も刺激的なご議論を伺うことができるものと期待しております。

2 公正取引委員会の古谷委員長の「年頭所感」が公正取引委員会のHPや「公正取引」1月号に掲載されております。ご覧になった方も多いと思いますが,「厳正・適正な法執行」「競争政策の推進」「国際的な連携の推進」の3つの柱からなっています。昨年9月の就任挨拶において述べられた内容とそれほど変わっているわけではないと思いますが,「競争政策の推進」の部分が長く,多くの施策が盛り込まれていますので,「古谷公取委」の活動が従来に増して,「法執行」よりはガイドラインの作成や実態調査を含む「政策的対応」に重点を置いたものになるような印象も受けました。  なお,年頭所感の最後に,昨年12月の政府の成長戦略会議実行計画(中間とりまとめ)に言及され,「競争政策の在り方を独禁当局や関係省庁の協力の下,重要課題として取り組む」とされていることを受けて,「競争政策の強化に向けた検討に参加・貢献していきたい」と述べておられます。先週の事務総長定例会見記録(2月3日)によると,「今月10日,成長戦略会議の関連会議で,公正取引委員会の組織の在り方についても議論されると聞いてい(る)」として,記者から質問が出ています。成長戦略会議の有識者メンバーである竹中平蔵氏(慶應義塾大学名誉教授)がこの議論を主導されており,今後どのように展開していくのか,注目されるところです。

3 米国では,バイデン政権がスタートしましたが,連邦競争当局のトップの人選は進んでいません。昨年10月から12月にかけて,司法省が提起したGoogleに対するシャーマン法2条(独占行為)事件,連邦取引委員会(FTC)が提起したFacebookに対するシャーマン法2条違反を理由とするFTC法5条(不公正な競争方法)事件の行方も,誰がトップに任命されるかによって影響を受けることも考えられます。両事件の理論的分析については,上杉先生の本日の後半のテーマです。また,連邦議会では,上院司法委員会のKlobuchar議員らが2月4日,クレイトン法の改正等を内容とする法案(Competition and Antitrust Law Enforcement Reform Act)を提出しています。法案には,連邦競争当局の予算の増加,合併規制の強化(違法基準の緩和及び立証責任の転換),支配的事業者による排除行為を禁止する規定のクレイトン法への追加等が盛り込まれており,連邦議会の両院を民主党が支配する状況下で,何らかの改正が実現する可能性もあると思われます。
  また,EUにおいては,12月15日に欧州委員会が「デジタル・サービス法(Digital Services Act)」及び「デジタル市場法(Digital Markets Act)」の立法提案を公表しました。前者は,デジタル・サービスの利用者の権利保護を内容とするものであり,後者は「ゲートキーパー(gatekeeper)」機能を果たす大規模な中核的プラットフォーム事業者を対象とする行為規制を内容としています。デジタル市場法が定める行為規制に違反すると,全世界売上高の10%を上限とする制裁金が課され,繰返しの違反に対しては構造的な措置を採ることもできるようです。
  専ら反トラスト法の活用や強化を目指そうとする米国,競争法の執行に加えて強力な新規立法を目指すEUとの間にあって,我が国が採ることとした措置,すなわち,特定デジタルプラットフォーム取引透明化法の制定や独占禁止法の消費者取引優越的地位濫用ガイドラインの策定,消費者庁において検討中の消費者保護の観点からの新法の立案等を内容とする政策パッケージはどのように評価されるのでしょうか。いずれにせよ,各法域における動きから目が離せません。

4 前回12月の月例研究会以降の独占禁止法を巡る動向については「競争法関連の動き」をご参照いただきたいと思いますが,前回から2か月近く経過しており,様々な動きがありましたので,重要なものをいくつか紹介します。
  第1に,入札談合に関する刑事的執行及び行政的執行です。前回,地域医療機能推進機構発注の医薬品納入を巡る入札談合事件の告発・公訴提起について詳しく紹介しましたが,年末にJR東海発注リニア中央新幹線品川駅及び名古屋駅新設工事を巡る受注調整事件について公正取引委員会が排除措置命令及び課徴金納付命令を行いました。刑事事件としては,既に2社に対する有罪判決が確定しておりますが,違反自体を争っている2社及び2名に対する判決が3月1日に言い渡される予定です。違反を争う2社は,排除措置命令に対しても取消訴訟を提起するものと予想されます(なお,2社は関係工事を受注しておらず,課徴金納付命令は受けていません)。入札談合・受注調整事件は,かつてに比べると件数が大きく減少していますが,これが重大な違反行為が根絶されてきていることの表れであることを期待しています。
  第2に,デジタル市場における競争問題への対応です。この点については,本日のテーマの一つでもあり省略しますが,実効的な取組を期待したいと思います。なお,公正取引委員会のHPに「デジタル市場における公正取引委員会の取組」をまとめたサイトが設けられており,一覧性があって大変便利です。
  第3に,各種のガイドラインの作成や改定が進められており,意見募集が行われています。特に,スタートアップとの事業連携やフリーランスに関するガイドラインの作成は政府一体としての取組の一環として,関係省庁との連携によるものであり,また,フランチャイズのガイドラインの改定は昨年9月のコンビニ本部・加盟店間取引実態調査報告書を受けたものです。気になるのは,これらのガイドラインが主に優越的地位濫用規制に依拠したものであることです。ガイドラインに依存した独占禁止法の運用が「安上り」で,一面で「効果的」であり得ることは事実ですが,過度の依存に問題はないのか,注意していく必要があります。また,本日の上杉先生の前半のテーマである,山陽マルナカ事件東京高裁判決とそれを受けた公正取引委員会の対応が今後の優越的地位濫用規制,更には独占禁止法規制全般の展開にどのような意味を持つのかを考えることが必要であると思います。
  第4に,国際的な企業結合事案2件の審査結果が公表されました。いずれも実効的な問題解消措置が採られた事案であり,一見,公正取引委員会が国際合併に実効的に取り組んでいるようにみえます。ただし,欧州委員会も審査を行っており,条件付きで承認しており,問題解消措置も実質的には同じようです。見方によっては,欧州委員会の審査にいわば「ただ乗り」した成果ではないかという疑問も出てきます。そうした疑問を払拭するような,海外競争当局の審査にも貢献するような国際的執行に期待したいと思います。
  なお,国際的企業結合審査については,昨年3月に第2次審査が開始された韓国の造船会社の統合事案の行方が気になります。本件については,欧州委員会も審査しており,また,韓国政府の造船支援措置がWTO補助金相殺関税協定に違反するとして,日本政府がWTO紛争解決手続を要請し,政府間の協議が続いています。造船業においては,日本でも事業統合が行われてきており,本件は外交的にも大変難しい案件になっているのではないかと危惧しています。

5 上杉先生の本日の講演資料には,「令和3年の競争政策の注目点―多難の時代の幕開け」というタイトルが付されています。どういう意味で「多難の時代」であるのか,身を引き締めてご講演を伺いたいと思います。よろしくお願いいたします。

 

 

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