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  • 2020/12/18
  • コラム
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会長コラム更新「日米の競争法違反事件ー医薬品談合とFacebook」

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競争法研究協会会長 栗田 誠
1 12月9日に,日米で競争法違反事件に関する重要な動きがありました。日本では,公正取引委員会が地域医療機能推進機構発注の医薬品納入を巡る入札談合事件について3社及び7名を検事総長に告発し,同日に公訴が提起されました。米国では,連邦取引委員会(FTC)と48州・地域の司法長官がそれぞれ,Facebookをシャーマン法2条違反でDC地区連邦地裁に提訴しました。日米それぞれの事件について簡単に紹介しつつ,感想を述べたいと思います。

2 まず,地域医療機能推進機構(以下単に「機構」といいます)が発注する医薬品の納入を巡る入札談合事件ですが,前回の告発事件は,平成30年(2018年)3月のJR東海発注リニア中央新幹線駅舎工事の受注調整事件であり,2年半振りの告発となりました。しかも,リニア中央新幹線の事件は検察当局主導で捜査が行われており,公正取引委員会は実質的には調査を行っていないとも言われています。そうすると,今回の告発は,東日本高速道路東北支社発注舗装災害復旧工事の談合事件(平成28年2月告発)以来ということになり,実に5年近い空白があったということになります。平成17年改正により犯則調査手続が導入され,裁判官の令状を得て捜索・差押を行う権限を有する犯則審査部が設けられました。改正直後の数年間は毎年のように告発が行われていたものの,その後は2年に1回という従来のペースが続いてきており,平成17年改正時の期待通りではないという印象も持っています。ハードコア・カルテル事件全体の件数が減少しているように見受けられますが,それが累次の課徴金制度の強化を含め,カルテル規制の実効性の現れであるといえるのかどうか,慎重な分析が必要であろうと思います。
 今回の談合事件をみますと,告発対象とするには条件的にぴったりの事案であったように思われます。公正取引委員会が公表しています「告発方針」には,「国民生活に広範な影響を及ぼすと考えられる悪質かつ重大な事案」,「(違反を反復しているなど)行政処分によっては独占禁止法の目的が達成できないと考えられる事案」という二つの類型が明記されています。本件は,この両方の類型に当たると考えられているようです。公正取引委員会の公表資料には記載がありませんが,新聞各紙をみれば,様々な追加的な情報(本件がいかに「悪質かつ重大」であるかを示す情報)が掲載されています。「医薬品で入札談合をすれば,保険医療を負担する全国民,将来世代にも影響が及ぶ可能性がある。過去の違反歴があるにもかかわらず,大変悪質だ」という公正取引委員会の本件犯則調査担当者の会見での発言(12/10朝日朝刊27頁による)が全てを物語っています。
 もちろん,告発方針が定める類型に合致するだけで実際に告発ができるわけではありません。刑事責任を問うレベルでの証拠が必要になることは言うまでもありません。入札談合事件の中には,大変古くから慣行的に行われていて,談合のルールや実施方法自体が明確ではないものもあります。また,建設談合のように,一般に関係する事業者数が大変多く,これらの共謀を刑事レベルで立証することが実際上不可能に近いような事案もあります。その点で本件では,発注者である地域医療機能推進機構自体が2014年に設立されたものであり,また,その傘下の全国57の病院に納入できる体制を有する医薬品卸売業者は事実上関係人4社しかおらず,実際にもこれら4社しか入札には参加していなかったとされています。そして,1回の調達で総額700億円を超えるというのですから,公正取引委員会や検察当局にとっては,刑事事件として取り上げるための条件が揃っていたといえます。
 報道によれば,4社のうちの1社が告発・起訴の対象から外れており,公正取引委員会に課徴金減免申請をしていたとされています。東京地検特捜部は「認否は明らかにしていない」(12/10朝日)とされており,残る3社の中にも減免申請をした者がいるかどうかが注目されます。告発・起訴された3社の12/9のプレス・リリースを読む限りでは,違反事実を認めているようにも感じられます。リニア中央新幹線の受注調整刑事事件では,4社のうち減免申請をしなかった2社が全面的に争うという展開になっており(他の2社については判決確定),来年3月の判決が注目されています。
今回の独占禁止法違反事件の背景として,地域医療機能推進機構の医薬品の調達方法に問題はなかったのかという点も問われます。4社で「受注予定比率」を設定し,その比率に見合うように医薬品群ごとに受注予定事業者を決定していたとされており,2018年の入札における4社の受注額が報道されています(12/10日経朝刊)。1回の入札で1事業者のみが受注できるという入札ですと,事業者間の調整は容易にまとまらないでしょうが,4社の事業規模に応じて「山分け」するということであれば,たやすく合意できたのではないかと思われます。また,全国57病院向けの納入を同機構の本部で一括して決定するという方法が適切なのかという点も重要なポイントです。この点は,この事件の調査開始後に地域ごとに調達する方法に変更されているようですが,調達方法の全面的な見直しがなされることを期待したいと思います。
 また,医薬品調達は全国の大規模病院においても同様の方法で行われていると考えられ,今回の事件を契機に,適切な場で抜本的な検討が加えられることが望ましいのではないかと考えています。公正取引委員会としても,違反事件の処理で一件落着とするのではなく,競争的で公正な調達に向けて政策的な観点からの取組も進めていただくことを期待したいと考えています。

3 次に,同じ12月9日に,米国連邦取引委員会(FTC)と48州・地域の司法当局のそれぞれがFacebookをDC地区連邦地裁に提訴した事件です。かねてから調査の進展が報道されていた事案ですが,我が国でも大きく報道されています。FTCは,シャーマン法2条違反(独占行為)によるFTC法5条違反(不公正な競争方法)として提訴しており,FTCの票決は3対2(共和党の委員2名が反対であるものの,意見の公表はないようです)となっています。また,州当局では,シャーマン法2条及びクレイトン法7条(合併等)を根拠としています。Instagram及びWhatsAppの買収自体をクレイトン法7条違反として独立の訴因としている点がFTCと異なります。いずれの訴訟も,personal social networking servicesの市場における独占維持行為を問題としているわけですが,具体的な違反被疑行為は次の2つです。訴状では,Mark Zuckerberg氏の攻撃的な言動が競争制限的意図を示すものとして度々引用されていますが,この点はMicrosoft事件のBill Gate氏を思い出させるものがあります。

①Instagramの買収(2012年)及びWhatsAppの買収(2014年)による競争の抑止:“buy-or- bury strategy”(州当局の訴状の表現)
 ②アプリ開発者のFacebookのプラットフォーム利用に際しての制限的な条件の強要
  また,Facebookの違反被疑行為による競争上の弊害として,次のような点が挙げられています。
ⓐユーザーに対するプライバシー保護の低下,選択肢の喪失,イノベーションの低下等の非価格面の悪影響
ⓑ広告主に対する広告料金,広告の質・選択肢への悪影響
ⓒアプリ開発者に対する競争機会の否定
裁判所に求める救済措置は今後具体化されていくことになりますが,次のような広範な内容が想定されています(FTCと州当局で少し異なるようです)。
 ❶継続している競争制限行為の停止
 ❷違法に買収した事業の分離
 ❸将来の買収計画の事前通知
 ❹モニタリング

「FTCは2件の買収を容認していたのに,後から提訴するのはおかしい」とFacebookは主張しており,同様の指摘が多数見られますが,FTCが公表しているQ&Aでは次のように説明しています。
・単に2件の買収を問題にしているのではなく,長年に亘るpersonal social networking servicesの市場における独占維持行為を提訴している。
 ・2件の買収が合併事前届出の手続を完了していることは提訴権限に影響しない。
 ・完了済みの買収であっても,違法になればFTCは提訴できるし,これまでも提訴してきている。
また,Facebookの分割をかねてから主張しているTim Wuコロンビア大学教授は,次のようにコメントしています。
・「FTCは2件の買収を『承認』していた」と報道されることがあるが,誤りである。単にその当時は提訴しなかったというにすぎず,その後の法執行活動が法的に制約されるものではない。
・買収当時はFacebookの独占が持続するか不確かであったが,現時点では持続的なものであると分かってきたにすぎない。
・仮にFTCは過去の判断に制約されるべきであるとしても,州当局は別個の権限を有しており,何ら制約を受けない。
Facebookに対して,米国ではこれまでプライバシー保護の観点からの調査・処分が行われてきましたが,シャーマン法2条違反という反トラスト法の本丸の事件として真っ向から争われることになります。10月20日に司法省及び8州当局が提訴したGoogle事件とともに,長期戦になることは必至であり,これら訴訟の行方とともに,他の法令による提訴や他の政策手段の可能性を含め,巨大デジタル・プラットフォーム問題に対する米国の取組を引き続きフォローしたいと考えています。EUにおける動きについても同様であることは言うまでもありません。

4 日米でたまたま同日に競争法違反事件が提訴されたというだけのことではありますが,日本では相も変らぬ談合事件であるのに対し,米国では巨大デジタル・プラットフォーム事業者による独占行為事件です。もっとも,その米国も,独占行為規制の面では事実上の野放しともいえる状況が永く続いてきたのであり,今後長期間続くと見込まれる裁判所における審理は予断を許しません。独占行為規制に関する判例法が行く手を遮ることも考えられ,また,審理が長期化するほど訴追側の考え方が変化すること(FTCの委員構成の変化や州当局の交代)もあり得るところです。その意味で,米国連邦競争当局によるGoogle及びFacebookに対する提訴は始まったばかりであり,どのような紆余曲折が待っているのか注目したいと思います。また,同様の問題に対する公正取引委員会による独占禁止法の執行がどのような理論と手法によって展開されていくのか(あるいは,法執行以外の手法に依存するのか)刮目すべきであろうと考えています。菅政権の下で新たに設けられた「成長戦略会議」が12月1日に取りまとめた「実行計画」の「デジタル市場における競争政策の推進」の項には,「デジタルプラットフォーム事業者による反競争的行為があった場合に積極的に法執行できるようにするため,……公正取引委員会の体制を強化する」と明記されていますので,是非期待したいと思います。

 

 

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