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  • 2020/11/16
  • コラム
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会長コラム更新「委員長交代・政権交代の意味合い、米国やEUにおけるGAFA規制、実務家による独占禁止法の解説書」

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(2020.11.13月例研究会 開会の挨拶時)
1 今回は,公正取引委員会の岩下企業結合課長に「企業結合規制と審査」と題してご講演をいただきます。ご講演の後に感想・コメントをさせていただく時間がありますので,冒頭のご挨拶では別のことを3点お話しします。第1に,日本では公正取引委員会の委員長の交代があり,米国では政権交代が予定されていますが,競争当局のトップの交代が持つ意味合いについての日米比較です。第2には,米国やEUにおけるGAFA規制について考えてみたいと思います。そして,第3に,最近,実務家が独占禁止法の解説書を相次いで出版されていますので,その意義について考えてみます。

(委員長交代・政権交代の意味合い)

2 まず,委員長の交代,あるいは政権交代の意味合いです。公正取引委員会の古谷委員長が就任されて2か月近く経過しましたが,9月17日に行われた就任記者会見の模様は10月14日になってようやく公正取引委員会のウェブサイトに掲載されました。具体的な施策として,①厳正かつ実効的な独占禁止法の執行,②中小事業者に不当に不利益を与える行為に対する取締り,③デジタル分野等における競争環境の整備,④令和元年改正独占禁止法の施行・定着,⑤海外競争当局との連携・協力と国際的貢献の5点を挙げておられますが,ご自身も述べられているように,杉本前委員長が取り組まれた路線を引き継ぐものといえます。古谷委員長がご自身で準備されたというよりは,事務総局が用意したものを受け入れて(多少の修正はあるにせよ)表明されたものと受け止めるのが自然であろうと思います。我が国では,継続性や一貫性を重視する行政機関として,委員長が交代するからといって法執行方針に変化はなく,むしろ変化があってはならないと考えられており(これが合議制の一つのメリットであるともいえます),委員長交代を機に,それまでの成果を評価し,新たな方針を提言するような動きは基本的にはないといってよいと思います。

  他方,米国では,この度の大統領選挙を受けて政権交代が事実上決定し,競争当局,特に司法省反トラスト局では局長をはじめとする幹部が交代するものと考えられます。任期制の連邦取引委員会委員にあっても,委員長は大統領によって指名されますので,委員長は交代すると考えられ(ただし,現在の共和党の委員が3名,民主党の委員が2名の構成は,共和党の委員が辞任又は任期満了により退任しない限り,変わりません),競争局長をはじめとする幹部も交代すると思われます。1990年代以降の連邦反トラスト法に関する限り,超党派のコンセンサスが形成されてきており,政権交代による大転換は起きないようになってきているとはいうものの,トップの交代により何がしかの変化が出てくることは避けられないと思います。ここ2年程の間に急速に高まってきているGAFAに代表されるデジタル市場における支配的企業に対する反トラスト規制の動きが強まることは必至です。もちろん,いくら反トラスト当局が積極的であっても,最終的に判断するのは裁判所であり,特に連邦最高裁判所の判断が決定的に重要です。だからこそ,最高裁判所判事の指名・承認に際しては,反トラスト法に関心を持つ公益団体・シンクタンクなどから,候補者の反トラスト法に関する判断の傾向を分析・予測するレポートが公表されます。先月のバレット判事の任命は,独占行為規制に慎重な判例法を維持する方向に働くと考えられています。また,先般の下院司法委員会反トラスト小委員会の民主党スタッフレポートにもあるように,反トラスト法自体を改正する提案もされていますが,「経済憲章」としての反トラスト法の根幹となす規定が容易に改正できるとは思えませんし,上院では共和党が引き続き多数を占めるとみられている状況では尚更です。

  当面,司法省反トラスト局長に誰が就任するのか,また,連邦取引委員会の委員長に誰が指名されるのかが注目されますが,従来の例では早くて来年3月ごろではないかと思われます。より注目すべきは,政権移行チームがどのような反トラスト政策を採用するかにあると思います。オバマ大統領により指名され,2014年から2018年にかけて連邦取引委員会委員を努めたマックスウィーニー(Terrell McSweeny)弁護士が政権移行チームで反トラスト法分野を担当していると報道されています。そして,その前提として,各種の公益団体・シンクタンク等がトランプ政権下の反トラスト政策をどのように評価し,次期政権にどのような提言を行うかが待たれます。AAI(American Antitrust Institute)などは今春からそうしたレポートを公表していますが,全米法曹協会(ABA)反トラスト法部会の政権移行レポートが間もなく公表されると思います。

(米国やEUにおけるGAFAの競争法問題の動き)

3 米国やEUにおいて,GAFAの競争法問題についての大きな動きが出ています。「競争法関連の動き」にも補足として紹介しておきましたが,米国では,米国下院司法委員会反トラスト小委員会の民主党スタッフレポートが10月6日に公表され,民主党バイデン大統領誕生の予想と相まって,日本でも大きく報道されました。10月20日には連邦司法省及び11州(共和党系)の司法長官によるグーグルに対するシャーマン法2条に基づく提訴が行われました。マイクロソフト事件以降,本格的なシャーマン法2条事件を取り上げてこなかった司法省がグーグルを取り上げたことについては予想外という評価もあります。グーグルに対しては,連邦取引委員会が,グーグルの「サーチバイアス(search bias)」と呼ばれる行為を含む様々な問題について連邦取引委員会法5条違反の疑いで調査を続けてきましたが,2013年1月に審査を打ち切るとともに,グーグルが一部の問題に関して一定の措置を採ることを約束した旨公表しています。今回司法省が取り上げている問題は異なるものですが,訴訟の行方が注目されます。マイクロソフト事件では,訴訟係属中に民主党から共和党への政権交代があり,同意判決で終了しましたが,今回は共和党から民主党への政権交代であり,グーグルにとっては厳しい訴訟になるのかもしれません(別の民主党系の7州が引き続き審査中であり,他の問題も含めて提訴する予定であり,その場合には併合審理されると報道されています)。

また,欧州委員会は11月10日にアマゾンに対して異議告知書を発出し,また,第2弾の審査開始を公表しました。アマゾンがオンラインショップを運営する事業者であると同時に,自らも小売事業を行っていることから,オンラインショップを利用する無数の小売業者と競争関係にあり,居ながらして得られる利用事業者の非公開情報を自己に有利に活用していることが支配的地位の濫用に当たると欧州委員会では考えており,今後,グーグルからの反論の手続が行われます。
GAFAに限らず,近年の大型の独占行為あるいは支配的地位濫用の事件では,支配的事業者が自己の地位を維持・強化するために取引相手に巨額の支払をして排他的取引を実現するというタイプの行為が問題となっています。少し前のインテル事件では,パソコンメーカーに対するMSS(全体に占めるインテル製CPUの使用割合)の目標達成に対するリベート供与の約束が問題となり,まだ係属中ですが米国連邦取引委員会によるクアルコム事件(控訴審で連邦取引委員会が逆転敗訴〔8/11〕,全員法廷による再審理の申立て)では,アップルに対する巨額の支払による排他的取引が対象となっています(なお,本件について,司法省は提訴に否定的な意見を出していました)。今回の司法省によるグーグル事件でも,アップルをはじめ,様々な取引先・ライセンス先に対してグーグルは独占利潤を配分しています(revenue sharing agreements)。支配的地位にある事業者同士で,お互いに利益になるように合意することで現状維持,参入排除を図っているともいえます。

翻って我が国の状況をみますと,デジタル市場競争会議ワーキンググループにおける検討など,実態調査・分析や特定デジタルプラットフォーム透明化法による一種の業規制に向けた動きは目につきますが,独占禁止法を適用しようとする動きは乏しいと感じます。取引先に対する優越的地位濫用やMFN条項の事件はあるにしても,これらも自発的措置による審査終了であったり,確約計画の認定であったりします(もっとも,公正取引委員会の取扱いとしては,確約認定は「法的措置」の一種です)。以前,ある論文(注)に書いたことですが,公正取引委員会は,インテルを世界で最初に取り上げ(正確にはインテルの日本法人ですが),また,不十分とはいえ,早い段階でグーグルの排他的契約を審査したことがあることを思い出す必要があります。公正取引委員会では精力的にデジタル市場の実態把握のための調査を行ってきており,それ自体有益なものであり,政府全体としての取組にも大きく貢献しているわけですが,違反事件審査という手法による取組も是非期待したいものです。

(注)栗田誠「排除行為規制の現状と課題」金井貴嗣・土田和博・東條吉純編『経済法の現代的課題(舟田正之先生古稀祝賀)』(有斐閣・2017年)175-195頁。(実務家による独占禁止法の解説書)

4 最後に,実務家による独占禁止法の解説書をまず紹介します。ごく最近,越知保見弁護士(明治大学法科大学院教授)が『日米欧競争法大全』(中央経済社・2020年11月)という1000頁を超える大著を刊行されました。「大全」の名にふさわしい,質・量ともに圧倒される著作です。また,先月の本研究会にご登壇いただきました長澤哲也弁護士が所属事務所の同僚らと共に『最新・改正独禁法と実務―令和元年改正・平成28年改正』(商事法務・2020年10月)を刊行されています。長澤弁護士が『独禁法務の実践知』(有斐閣・2020年6月)という斬新な実務書を公刊されたことは先月の研究会でご紹介したとおりです。他にも,永口学・工藤良平両弁護士の編著による『Q&A 独占禁止法と知的財産権の交錯と実務』(日本加除出版・2020年9月)といった,特定テーマの実務書も公刊されています。加えて,菅久修一事務総長をはじめとする公正取引委員会職員を執筆陣とし,独占禁止法の定番テキストになりつつある『独占禁止法〔第4版〕』(商事法務)も間もなく刊行されるようです。

  雑誌論文をみますと,ジュリストの本年7月号の特集「これからの企業結合規制」,10月号の特集「令和元年独占禁止法改正の論点」の執筆陣のほとんどは実務家です(いずれの号でも,白石忠志教授が総論的な短い論稿を書いておられるが)。「NBL」,「ビジネス法務」や「Business Law Journal」といった,より実務的な雑誌にあっては尚更です。

  こうした著作をされている実務家の方々の中には,法科大学院で教鞭を取っておられる方も少なくありません。いずれ,法科大学院の経済法・独占禁止法の授業担当は実務家に席巻されるのかもしれません。

  他方,研究者による著作は,漠然とした印象にすぎませんが,質・量ともに低下しているのではないかと感じます。その背景には,大学研究者が研究に費やすことができる時間が減少しているという,分野を問わずに生じている問題があると思われます。しかしそれだけではなく,経済法研究者が現在の独占禁止法の実務を理解し,実務に影響を及ぼし得るような研究・著作を行うことが難しくなってきているのではないかと個人的に感じています(もちろん,実務に接続するような研究だけが研究者の役割ではないことは当然ですし,むしろそうした研究は研究者の任務ではないということかもしれません)。それは,例えば,近年の独占禁止法の改正が課徴金制度・課徴金減免制度に関わる専門技術的なものであって,研究者は関心を持ちにくいこと,企業結合規制が高度化・精緻化し,また,医薬品,デジタル分野等の容易に実態を理解することができない事案が多いこと,審判手続の廃止,確約手続の導入等もあり,詳細な事実認定や法解釈を示すことなく違反事件が処理されることなどによるのではないかと考えています。単に私の能力不足を自認しているにすぎないのかもしれませんが,独占禁止法の理論と実務の発展にとって望ましいことではないと思います。

 

 

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