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  • 2020/10/13
  • コラム
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会長コラム更新「10月月例研究会冒頭挨拶」

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競争法研究協会会長 栗田 誠より第281回月例研究会冒頭挨拶

1 9月12日をもって杉本和行委員長が退任され,同月16日に古谷一之氏が委員長に就任されました。菅内閣の発足と同日であり,政府全体としての取組の一環として公正取引委員会が活動していく局面が従来以上に増すのではないかと思います。公正取引委員会の活動については,その内容面だけでなく,活動の手法や様式という観点からも様々な考え方があり得ます。この点に関しては,以前,会長コラムに「公正取引委員会の職権行使の独立性」(令和2・4・11)と題して少し論じたことがあります。また,杉本委員長の下での公正取引委員会の活動の評価についても,既に会長コラムにおいて所見(令和2・9・18)を述べていますので,ご一読いただければ幸いです。
☞http://www.jcl.gr.jp/column/index.php

ところで,古谷委員長は9月17日に記者会見をされたようですが,就任に当たってのメッセージは公正取引委員会のウェブサイトには掲載されていないようです(10月9日午前9時の時点)。菅久事務総長は,9月30日の定例会見の質疑において,「就任の会見の時にも委員長自身の言葉で,今後の課題を5点ほど挙げておりました。私は完全に共感しております。」と述べているが,今後の課題5点とは何か,報道を見ても分かりません。そもそも,事務総長定例会見の記録は公表しつつ,委員長の会見記録は公表しないということも理解に苦しむところです。公正取引委員会への関心や期待が高まっている時期だけに,迅速に新委員長のメッセージが発信されることが望ましいと思います。おそらく「公正取引」の10月号の巻頭に「就任挨拶」が掲載され,それと同時期に同文の挨拶が公正取引委員会のウェブサイトにも搭載されるものと予想しています。また,この点は,就任時に限ったことではありませんし,委員長に限ったことでもありません。積極的な情報発信を期待したいと思います。

2 ここ1か月ほどの公正取引委員会の活動については,メモにまとめたとおりですが,委員長交代という時期でもあり,大きな動きとしては,アマゾンジャパンの協力金に係る優越的地位濫用事件の確約認定が9月10日に公表されたことくらいでしょうか。春から夏にかけて,委員長の交代を前にして排除措置命令・課徴金納付命令が続々と出るという状況を期待したのですが,そうはなりませんでした。尤も,公正取引委員会としては,確約認定も「法的措置」の一種であり,全体として違反事件に厳正に対処していく方針に変わりはなく,実績も挙がっているという認識ではないかと思います。

3 さて,本日は講師として大江橋法律事務所の長澤哲也先生をお迎えしています。先生のご経歴は紹介するまでもありませんが,この6月に『独禁法務の実践知』(有斐閣)を上梓されたばかりです。既にご覧になった方も多いと思いますが,「はしがき」にも書いておられるように,独禁法務の暗黙知を可視化するという明確な意識の下に,企業の事業戦略上の行為がどのような目的で行われ,どのようなメカニズムで競争阻害効果をもたらし得るのかという観点から類型化し,どうしたら問題とならないようにできるかを解説するという,これまでにない斬新な構成・内容の実務書です。いろいろと書評や紹介も出ているところですが,是非,本書の発想やエッセンスを理解するともに,具体的な問題に直面した際の辞書として活用されることをお薦めします。

4 本日のご講演のテーマである優越的地位濫用規制については,近年益々その重要性を増していることは皆様ご承知のとおりです。アマゾンや楽天といった事業者の違反事件もあれば,コンビニや知的財産取引,デジタルプラットフォームを巡る取引等の実態調査,さらには関係するガイドラインの作成と,公正取引委員会の活動様式も多彩であり,また,極端にいえば,どの企業でも違反になり得る問題ということでもあります。反面,司法判断の蓄積は乏しく,公正取引委員会の運用に大きく委ねられています(注1)。また,同様の問題が民事訴訟として提起される可能性もあり,企業法務としては厄介な問題でもあります。いかにして問題に「ならない」ようにするか,貴重なご講演をいただけるものと思います。
  優越的地位濫用規制は国際的にも注目を集めており,今週火曜日(6日)に米国下院司法委員会反トラスト小委員会が公表した449頁の「デジタル市場における競争」に関する調査報告書では,支配的なプラットフォームによる優越的交渉力(superior bargaining power)の濫用を禁止することを提言しています。こうした提案の妥当性や実現可能性については更なる検討が必要ですが(注2),濫用規制を否定してきた米国反トラスト法における変化は注目に値します。米国にとっては専ら輸出品であった競争法を今度は米国がEUや日本から輸入することになるのでしょうか。

(注1)優越的地位濫用規制に関しては,6月8日の第276回月例研究会における矢吹弁護士のご講演の際に,かなり詳しく私見を述べていますので,ご参照ください。(注2)本レポートは,米国下院司法委員会反トラスト小委員会の民主党スタッフによるものであり,司法委員会やそのメンバーの見解を示すものではない。スタッフの一人にLina Khanがいる。言うまでもなく,Amazon’s Antitrust Paradox, 126 Yale L. J. 710 (2017) の筆者であり,この分野に関する多数の論文を公表している。なお,「この報告書の表紙をちょっと見ますと,マジョリティースタッフレポート・アンド・レコメンデーションと書いておりまして,こういう記載があるというのはなかなか珍しいことと思っておりまして,そういうこの報告書の位置付けなども含めて,今,担当課のほうで情報収集と確認をしているところということでございます。」(菅久公正取引委員会事務総長10/7定例会見)の発言は奇妙である。報告書作成までの公聴会等の模様は日本でも広く報道されてきている。

 

 

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