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  • 2020/09/18
  • コラム
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会長コラム更新「杉本委員長の下の公正取引委員会の活動」

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杉本委員長の下の公正取引委員会の活動
競争法研究協会
会長 栗 田 誠

1 公正取引委員会の杉本和行委員長が9月12日をもって定年により退任された。2013年3月5日に就任されて以来,約7年半の長きにわたり公正取引委員会を引っ張ってこられた。前任の竹島一彦委員長が10年以上務められたことに比べると短いが,それでも7年半という期間は個人的にはやや長いようにも感じる。公正取引委員会という組織は委員長の個性やリーダーシップが反映されやすいという印象を持っており,特別の事情がない限り,1期5年で交代というのが適切なのではないかと思う(定年や任期の関係もあることは承知している)。

2 杉本委員長の下での公正取引委員会の活動を振り返ると,次のような様々な成果を挙げることができる。
特に政策面・制度面では,第1に,令和元年独占禁止法改正が実現したことである。主に課徴金減免制度に調査協力減算の仕組みを導入するものであるが,売上額の算定方法や算定率に関しても重要な改正を含んでいる。12月25日の施行を待つばかりとなっており,任期を見据えた見事な仕事振りである。弁護士・依頼者間秘匿特権問題による1年遅れがなければ,改正法の効果を見届けることもできたと思われるだけに,ご本人にとっては心残りかもしれない。
第2に,デジタル経済に対する積極的な取組が挙げられる。いち早く杉本委員長が自ら推進されてきた課題であり,政府一体としての取組の中で,実態調査やガイドラインの策定が重点的に進められてきている。
第3に,優越的地位濫用規制を最大限活用し,様々な分野や取引の実態が解明され,また,新たな問題にも適用する姿勢が示されたことである。特に,消費者取引に対する適用への道を拓いたことが今後どのような意味を持つのか注目される。
第4に,平成28年改正により確約手続が導入され,協調的な法執行のための新たな手法を獲得したことである。私的独占や不公正な取引方法に係る硬直的な課徴金制度の発動が容易ではない中で,法的措置として位置付け得る確約手続は極めて有用である。TPP協定(環太平洋パートナーシップ協定)の合意に含まれていることを契機とした,公正取引委員会にとっては幸運な改正であった。
第5に,人材分野への取組やデータへの着目,業種横断的データ連携型業務提携など,新規の分野や課題に独占禁止法・競争政策の光を当てたことである。CPRC(競争政策研究センター)における検討会の開催という活動様式も定着している。

  また,こうした多面的な取組が,同時に,独占禁止法に対する関心を高め,公正取引委員会への注目を集める効果をもたらしていることも指摘できる。なお,杉本委員長は在任中に『デジタル時代の競争政策』(日本経済新聞出版社・2019年)を上梓された。委員長・委員が在任中に独占禁止法に関する著作を公表することについては様々な意見があり得ると予想されるが,個人的には大変結構なことであると思う。委員長・委員が積極的に講演録や論文の公表を含め,積極的に発信されることを期待したい。

3 他方,法執行面では,実体的にも手続的にも物足りないものに終わったと感じる。
第1に,排除措置命令は事実上ハードコア・カルテルと再販にほぼ限定されており,他の行為類型,特に排除型行為の事例は少ない。また,大型の価格カルテル事件はあったが,ハードコア・カルテルの件数や規模としても限定されている。
第2に,確約認定の事例が次々と出ているが,本来の趣旨に沿うものばかりとはいえず,また,優越的地位濫用に関わる確約事案は課徴金制度に起因する面も大きいとみられる。
第3に,政策的に取り組んでいる分野や課題に関わる違反事件は少なく,特に排除措置命令に至る事案はほとんどない。また,規制産業における問題は,違反事件ではなく,実態調査等で対応し,違反事件として取り上げる場合にも,法的措置ではなく,非公式措置で処理する姿勢が顕著である。
第4に,政府全体の取組の一環としての活動が顕著であり,内閣官房や他省庁との連携・協力を重視し,違反事件として取り上げるのではなく,実態調査と問題指摘,ガイドラインの作成といったソフトな手法が多用されている。
第5に,以上を総括して,取消訴訟が提起されないような手続・手法によって実際的な問題解決を図ろうとする姿勢が顕著で,法執行活動を通してルールを形成するという発想は乏しい。要するに,「普通の行政機関」として活動しようとしている。

4 杉本委員長の下での公正取引委員会の活動を総体としてどのように評価するか。一言で述べることは難しいが,個人的には,多面的な取組は高く評価するものの,問題提起や啓発に終始したものも多く,やや不完全燃焼ではなかったかと感じる。前任の竹島委員長の下での積極的な法執行活動が多数の審判・訴訟事件につながり,その対応に苦慮し,決着がつくのを待たざるを得なかったという事情もあり,また,NTT東日本事件,JASRAC事件のように関係省庁との間での軋轢も生じていたともみられる中で,特に法執行面では慎重に姿勢にならざるを得なかったのではないかと思われる。

5 9月16日に就任された古谷一之委員長は,これまでの発言からは杉本委員長の路線を踏襲されるようであり,また,同日発足した菅新内閣の下で政府一体としての取組を意識した活動がより強まるものと思われる。独占禁止法・競争政策の実現手法については様々な考え方があるにしても,杉本委員長が道筋を付けられた諸問題について具体的な成果を上げていくことが課題となろう。古谷委員長の下の公正取引委員会がどのような活動を展開するか,期待を持って注視していきたい。

 

 

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