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  • 2020/06/18
  • コラム
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競争法関連の動き(2020年5月中旬~6月上旬)

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2020年6月8日
競争法研究協会
第276回月例研究会


Ⅰ 法制・ガイドライン等(6月5日までの動き)
 ○独占禁止法改正法の施行に伴い整備する公正取引委員会規則案等に対する意見募集(4/2開始,5/15意見提出期限):本年秋に見込まれる改正法の施行に向けて最終化作業が行われている

                           
  ①課徴金算定における調査協力減算制度関係
   ・課徴金減免規則の全部改正案
   ・「調査協力減算制度の運用方針」(案) 
 
公取委の裁量の透明性を求める意見,最小限の減算率にされてしまう懸念等が出ている。
 
②弁護士・依頼者間秘密通信記録物件に係る判別手続関係
   ・審査規則の一部改正案
   ・「事業者と弁護士との間で秘密に行われた通信の
    内容が記録されている物件の取扱指針」(案) 
 
そもそも考え方が大きく対立してきただけに,極力限定したい公取委と極力拡大したい経済界・法曹界との溝は大きい。グローバル企業の実務への考慮等を主張する意見がどこまで反映されるか。
 
  ③供述聴取後のメモ取り関係
   ・審査手続指針の一部改正案 
 
供述聴取終了時に限定せず,途中段階でのメモ取りを認めるよう求める意見が出ている。
 

〇「地域における一般乗合旅客自動車運送事業及び銀行業に係る基盤的なサービスの提供の維持を図るための私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の特例に関する法律」の成立(5/20)
  ①地域乗合バス事業者及び地域銀行が主務大臣の認可を受けて行う合併等に係る独占禁止法適用除外の創設
  ②地域乗合バス事業者が国土交通大臣の認可を受けて行う共同経営の協定に係る独占禁止法適用除外の創設
  ③公正取引委員会との協議;10年以内の廃止
〇衆議院可決(4/16):日本共産党を除く賛成多数
〇参議院可決(日本共産党を除く賛成多数)・成立(5/20)⇒5/27公布(施行は6月後)
 ・参議院内閣委員会附帯決議5「公正取引委員会の企業結合審査については,本法の対象と ならない分野を含め,一般消費者の利益が確保されることを前提として,地域の実情等も踏まえつつ,できるだけ速やかに透明性の高い審査を実施すること」

 ○「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」の成立(5/27)
①「特定デジタルプラットフォーム」の定義を政令で定める
②情報開示と手続・体制整備:事前通知義務⇒勧告・公表→措置命令
③不当行為の禁止規定は設けない
④公正取引委員会に独占禁止法(不公正な取引方法)による対処を要請する仕組みを設ける
〇衆議院可決(4/23):全会一致 
  *4/17経済産業委員会に提出された修正案(笠井亮議員〔共〕提出:課徴金重課,禁止行為規定の追加)は否決
〇参議院可決(全会一致)・成立(5/27) ⇒6/3公布(施行は1年以内の政令で定める日)
★公取委事務総長定例会見(5/27):「競争環境の整備を図るという意味で,独占禁止法違反行為の未然防止の上でも非常に意義があると考えております。」「この法律でそういう環境の整備は図るとしても,さらに,独占禁止法に違反する行為が行われれば,(中略)独占禁止法に基づいてしっかりと調査をし,厳正的確に対応して,適切な措置を採っていくということを引き続きやっていきたいと考えております。」
〇「公益通報者保護法の一部を改正する法律案」の国会提出(3/6):大幅な改正
  ①「公益通報者」及び「通報対象事実」の範囲の拡大
  ②公益通報者の保護の強化,事業者のとるべき措置等の拡充
  〇衆議院可決(5/22):附則の一部を修正,全会一致
  〇参議院可決(6/8):全会一致

 〇新型コロナウイルス関係
  ・「新型コロナウイルス感染症に関連する事業者等の取組に対する公正取引委員会の対応について」(4/28)
   1 事業者の取組への対応
    (1) 物資の円滑な供給等に関して同業者が共同して行う取組への対応
    (2) 不当な高価格を設定する事業者に対するメーカー等による取組への対応
   2 中小・下請事業者へのしわ寄せに対する対応
   3 消費者の利益を損なう行為に対する対応(抱き合わせ販売等)
  ・「新型コロナウイルス感染症拡大に関連する下請取引Q&A」(5/13):中小企業庁と連名
  ・「令和元年度における下請法の運用状況及び企業間取引の公正化への取組」(5/27):「新型コロナウイルス感染症に関連した取組」についても紹介(同日の事務総長定例会見でも発言)
  ★公正取引委員会の新型コロナウイルス関連の対応については「会長コラム Too Little Too Late? ―公正取引委員会の新型コロナ対応を巡って」(6/1付け)も参照
    http://www.jcl.gr.jp/column/042_column.php

〇全世代型社会保障検討会議(第7回〔5/22〕):フリーランスの政策の方向性に関する論点として,「政府として一体的に,以下のような政策を検討してはどうか」とされている。
  ・契約書面の不交付等→独占禁止法(優越的地位濫用)上不適切であることの明確化
  ・資本金1000万円以下の企業からの発注書面の不交付→下請法の改正
  ・取引条件の一方的変更・支払遅延等→独占禁止法(優越的地位濫用)・下請法上の問題の明確化
  ・仲介事業者とフリーランスの取引→独占禁止法適用の明確化
  ・関係省庁連名による実効性・一覧性のあるガイドラインの作成
  ・職員増による独占禁止法・下請法の執行強化
  ・下請振興基準を通した業所管省庁による執行強化

Ⅱ 独占禁止法違反事件
 〇大阪ガス事件(自発的改善・審査打切り:6/2公表):違約金条項等による大口顧客囲い込み
  ・違反被疑行為:大口供給地点向けの導管を通じたガス供給分野において,次の方法により競争事業者を不当に排除している疑い(2018年8月2日立入検査)
   ①不当廉売・差別対価
   ②包括契約
   ③中途解約金
  ・排除型私的独占又は不公正な取引方法(不当廉売,差別対価,拘束条件付取引若しくは競争者に対する取引妨害)
  ・審査事実

審査事実 考え方 大阪ガスの申出 評価
「同社の変動費に託送料金相当額を加えた水準を下回る額でガスを販売していた事実はほとんどなかったこと等から」,違反行為があるとは認められなかった。
包括契約の対象個別契約に係る取引を他のガス小売事業者に切り替えた場合,通常,金銭的負担が生じる。 不当に,他のガス小売事業者に取引を切り替えると金銭的負担が生じることにより,競争者の取引機会が減少するおそれがあるなどの場合には違反になる。 対象個別契約の一部について取引を継続しない場合,他の対象個別契約について包括契約を締結する等の措置を採る。 需要家が包括契約の対象契約を他の事業者に切り替えることに伴う金銭的負担がなくなり又は軽減されるため,競争者が取引を獲得することが現状に比して容易になる。
個別契約を中途解約する場合,中途解約金の支払いを需要家に義務付けている。 (同上)「不当に」に該当するかどうかは,中途解約により発生することが合理的に予測される損害の額等を勘案して判断される。 中途解約金の額をおおむね現在の約7割に引き下げる。 他の事業者に切り替えることに伴う金銭的負担が軽減され,競争者が取引を獲得することが現状に比して容易になる。

 (注)特に②について,大幅に簡略化していることに留意されたい。
  ・「4 本件の処理
 公正取引委員会は,前記3を踏まえ,今後,大阪ガスが自ら申し出た改善措置を実施したことを確認した上で本件審査を終了することとした。」
*大阪ガスが改善措置を既に実施したことを確認したので審査を終了したのか,あるいは,それを今後確認した上で審査を終了する予定であるのか,曖昧な記述である。
⇒大阪ガスのプレス・リリース(立入検査時のものに6/2追記)
 「……独占禁止法違反の認定はなされず,審査が終了しました。(改行)なお,審査の過程で,従来運用していた内容を契約書に明記するなどの対応を行うことを,公正取引委員会に申し出ました。」
  ★参考事例:北海道電力事件(平成14・6・28警告〔排除型私的独占〕):長期契約における途中解約の際の高い精算金・違約金による大口顧客の囲い込み
    ・その後の調査で他の電力各社でも同様の契約がみられたことから,一斉に是正措置が採られた(平成14・10・16公表)。
★実体面でも手続面でも問題が大きい事件処理である。
【実体面】
   ①:排除型私的独占ガイドラインにいう「商品を供給しなければ発生しない費用を下回る対価設定」が「ほとんどなかったこと」を主な理由として違反行為なしと判断したものと考えられるが,少しはあったことを認めるものであり,また,総費用ベースでのコスト割れの可能性には言及がない。他方,違反被疑行為の「競争者との競合が生じた場合のみ低くする」行為には全く言及がない。
   ②:不当性の判断が難しいことは理解できるが,「申出の措置により少しは改善されるから」というだけの判断のようにみえる。
   ③:②に比べれば,「不当に」の考え方がガス適正取引ガイドラインにも明記されており(第二部Ⅰ2(1)イ⑤の(注2)),参考事例もあることから,一層の分析が可能ではなかったかと思われる。なお,今回の報道資料では,「不当に」の判断の考慮要因として「中途解約により発生する…損害の額等」を挙げているが,上記ガイドラインの(注2)では「需要家が解約までに得た割引総額,当該解約によるガス小売事業者の収支への影響の程度,割引額の設定根拠等」とされており,齟齬があるようにみえる。
   ①②③:本件は,「複数の行為を組み合わせた参入阻止行為」(ガス適正取引ガイドライン第二部Ⅰ2(1)イ⑩)であるから,個別に検討するだけでなく,包括的な評価が必要なはずである。
  【手続面】
   ・排除措置命令(及び要件を満たす場合には更に課徴金納付命令)を目指さない理由が不明である。
・2年近い審査を行っていることが確約手続に付さない理由にはならないと思われる(後記の日本メジフィジックス事件〔令和2・3・12確約計画の認定〕参照)。確約手続の施行の時点(平成30・12・30)で既に改善措置が採られていた可能性はある。
・「警告」と「自発的改善措置による審査打切り」を区別する基準は不明であるが,少なくとも「警告」(違反のおそれがあると結論付けること)とする(審査規則26条に基づく事前手続を採ることになる)必要があったのではないか。
・報道資料には,電力・ガス分野における違反情報に接した場合には,「公益事業タスクフォース」(平成28年7月設置)において「効率的に調査を行う」とある。しかし,公益事業における旧独占事業者による新規参入排除行為を「効率的に」調査することなどできるのであろうか。末端の営業担当者レベルでの局所的な(特定の需要家を巡る)低価格設定による「取った,取られた」の紛争事案であれば簡易な調査が可能かもしれないが,本件のような,全社的な契約条項に関わる事案を「効率的に」審査して結論を出せるとは思われない。
★本件処理についての感想
・「小売全面自由化後の都市ガス事業分野における実態調査報告書」(令和元・6・28公表)には,「公正取引委員会は,ガス小売事業者による都市ガスの調達や需要家の獲得を不当に妨げる行為に対しては,独占禁止法を厳正に執行していく」(35頁)旨表明されているところ(前述したガス適正取引ガイドラインにも言及している。33頁),今回の審査結果はこの方針に沿ったものとは言い難い。予防・啓蒙的観点から積極姿勢のガイドラインや報告書の提言と慎重な審査実務との違いとして片付けるには重大すぎると思われる。
・公正取引委員会が電気通信,電力・ガス,航空等の公益事業における支配的事業者による排除行為に対して法的措置を採ったのはNTT東日本事件(排除勧告は平成15・12・4,最判平成22・12・17)に限られている(旧独占事業者という意味ではJASRAC事件も挙げるべきかもしれない)。最高裁でも支持された排除型私的独占事件として,共に歴史に残る事案である。しかし,残念ながら,その後に続く事件が現れてこない。大阪ガス事件は明らかにその可能性があると思われただけに,今回の結論は残念である。
・電力・ガスの小売全面自由化の中で,特に関西地区は大阪ガスと関西電力の間で激しい顧客争奪が行われており,今回の大阪ガスの違反被疑行為もそうした競争激化の中で生じたものと考えられる。そうだとすると,公正取引委員会としては,活発な(場合によっては行き過ぎた)競争を繰り広げる当事者の一方のみを独占禁止法違反(ないしはそのおそれあり)と結論付けることに躊躇があったのかもしれないし,その競争相手が関西電力であれば尚更ともいえる。

 〇クーパービジョン・ジャパン事件(確約計画の認定:6/4公表):価格広告の禁止等
  ・違反被疑行為:コンタクトレンズの販売について,小売業者に対して,次を要請
   ①広告への販売価格の表示を行わない
   ②医師の処方を受けた者にインターネットによる販売を行わない
  ・不公正な取引方法12項(拘束条件付取引)
  ・確約計画の概要
   ⓐ取締役会の決議(当該行為を既に行っていないこと等)
   ⓑ小売業者・販売代理店への通知,一般消費者への周知,自社従業員への周知徹底
   ⓒ3年間の同様の行為の禁止
   ⓓコンプライアンス
   ⓔ公正取引委員会への報告
  *立入検査は昨年6月11日(同社のほか,日本アルコン及びシードの3社同時)
  ★報道資料には,違反被疑行為として,上記①及び②を「行わないように要請していた」とのみ記載されている。なお,新聞報道によれば,「従わない業者には出荷停止などをほのめかしていた」という(19/06/11朝日夕刊)。
   ⇒「要請」だけで拘束条件付取引の行為要件(「拘束する条件をつけて」)を満たすかには疑問もあり,排除措置命令が行われなかったことと関係するのかもしれない。
   *同じコンタクトレンズ販売について排除措置命令が行われたJ&J事件(平成22・12・1)では,様々な実効確保措置が認定されている。
★本件は,確約認定の事例としては3件目となる。①楽天事件でも,同時に2社(ブッキングドットコム,ウィキペディア)も立入検査を受けており,引き続き審査中と思われる。

事件名 立入→認定日 違反被疑行為 確約計画
①楽天 2019・4・10→2019・10・25 (約6か月) 「楽天トラベル」における宿泊施設業者との間の同等性条項(他のルートよりも不利でない条件の要求)等【不公正な取引方法(拘束条件付取引)】 3年間の同様の行為の禁止 再発防止策
②日本メジフィジックス 2018・6・13→2020・3・11 (約21か月) がん診断用医薬品の新規参入者に対する妨害【排除型私的独占又は不公正な取引方法(競争者に対する取引妨害)】 3年間の同様の行為の禁止 再発防止策
③クーパービジョン・ジャパン 2019・6・11→2020・6・4 (約12か月) コンタクトレンズの価格広告の禁止等【不公正な取引方法(拘束条件付取引)】 3年間の同様の行為の禁止 再発防止策


①楽天確約認定事件の担当官解説(832号〔2020年2月〕では,「審査開始後,半年程度で確約手続による事件処理を行ったことによって,楽天に対し排除措置命令を行うよりも早く競争上の問題が早期に是正されたものと考えられる案件」として紹介している(81頁)。しかし,②日本メジフィジックスでは審査開始から約1年9か月,③本件では約1年かかっており,早期是正とは言い難いように思われる。両事件とも,それほど事実認定や法適用上の問題を含むとは考えにくく(前述のとおり,③本件には行為要件レベルの問題があった可能性はある),排除措置命令を行わない理由の合理的な説明が求められる。
★3件の報道資料は極めて簡潔であり,当該違反被疑行為が有し得る競争上の弊害や確約手続に付すことを適当と判断した理由を何ら説明するものではない。
  ・公正取引委員会「確約手続に関する対応方針」11 確約計画の認定に関する公表
   「確約計画の認定をした後,公正取引委員会は,具体的にどのような行為が公正かつ自由な競争に悪影響を与える可能性があるのかを明らかにし,確約手続に係る法運用の透明性及び事業者の予見可能性を確保する観点から,認定確約計画の概要,当該認定に係る違反被疑行為の概要その他必要な事項を公表する。」
    前述した大阪ガス事件(審査打切り)を含めて考えると,公正取引委員会の違反事件審査の公表内容は,排除措置命令や確約認定といった法的措置事件よりも,自発的改善により審査を打ち切った事件の方が詳しくなっているという倒錯した状況にある。

Ⅲ 企業結合事案
〇DIC株式会社によるBASFカラー&エフェクトジャパン株式会社の株式取得(第2次審査の開始:5/20公表)
 ★新型コロナ対応,あるいはポスト・コロナの問題として,企業結合が急増することへの懸念,十分な審査ができないことへの懸念等が世界的に議論されている。公正取引委員会においても,十分な備えができていることを期待したい。

Ⅳ 下請法等
 〇「令和元年度における下請法の運用状況及び企業間取引の公正化への取組」(5/27公表)
・荷主と物流事業者との取引に関する書面調査:荷主30,000名及び物流事業者40,000名を対象とする書面調査の結果,物流特殊指定に照らして問題となるおそれがあると認められた864名の荷主に対して,物流事業者との取引内容の検証・改善を求める文書を発送(令和2年3月)
・コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査:全国の約57,000の加盟店に対して,令和2年1月17日に調査票を発送

 

 

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