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  • 2020/06/01
  • コラム
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会長コラム更新【公正取引委員会の新型コロナ対応を巡って】

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 Too Little Too Late? ―公正取引委員会の新型コロナ対応を巡って
 競争法研究協会
 会長 栗 田 誠

 新型コロナ感染症関連の公正取引委員会の対応について,4月ごろから感じていることを2点申し上げたいと思います。一つは,公正取引委員会の違反事件審査への影響です。違反事件の審査では,関係人と対面して,供述を聴取して調書を作成するという方法が最重要の証拠収集の手段とされてきました。これが,対面による供述聴取ができないとなると,デジタル情報を含む各種資料の分析に重点を移さざるを得ないように思われます。かねてから供述依存,供述偏重の審査からの脱却が必要ではないかと指摘されてきましたが,審査実務が自ずと変わらざるを得ない状況になってきているように思います。ここにも「新しい日常(new normal)」があるということでしょうか。

 もう一つは,新型コロナ関連の独占禁止法の実体面・手続面における対応に関して,公正取引委員会からの発信が弱いのではないかという問題です。2月下旬から断片的に,報道発表や情報提供という形で,いくつかの問題に関する発信はありましたが,まとまった報道発表としては,4月28日の「新型コロナウイルス感染症に関連する事業者等の取組に対する公正取引委員会の対応について」が唯一のものです(なお,4月1日の定例会見においても,事務総長がそれまでの報道発表や情報提供を基に説明されています)。それまでの関連情報を整理して公表したことは適切であったと思いますが,私には“too little, too late”に見えました。米国やEUは言うまでもなく,世界中の多くの競争当局がこの問題に関する実体面・手続面の考え方や対応方針を積極的に発信しています(なぜか4月28日の報道資料には,米国やEUの対応やICNの声明が紹介されています)。また,競争当局幹部が自ら,執筆やウェブセミナーへの出演等,様々なメディアに登場して意欲的に発言されています。
 競争当局が発信すべき内容として,大別すると次の3つに区分できると思います。第1は,この緊急事態の下で,ハードコア・カルテル等の競争法違反に対しては厳正に取り組む姿勢を強調することです。公正取引委員会が2月末に行ったマスク等の抱き合わせに関する発表はこのタイプのものといえますが,より悪質な行為に対する姿勢を明確に示すことが必要だったのではないかと思います(4月28日の報道資料では,末尾で価格カルテル等への厳正な対処についても簡単に触れています)。

 第2は,緊急事態の下で必要になる事業者間協力や事業者団体の取組その他の活動について,独占禁止法違反のリスクの有無やリスクを回避する方策を具体的に示して,そうした活動を間接的に支援することです。この点に関しては,公正取引委員会は,東日本大震災の際の「想定事例集」や「Q&A」を参照するように情報提供しましたが,より積極的なメッセージを発信すべきであったと思います。蓄積があるわけですから,迅速に考え方や対応方針を示すことは難しいことではないと思われます。また,マスクや消毒製品等のメーカーが小売店に上限価格を指示する行為については,新聞報道(4月23日付け日経朝刊)に触発されるような形で4月23日に情報提供がなされました。しかし,そこで示された考え方は,緊急時に期間を限定してという条件付きの,かなり抑制的なものになっています。むしろ,最高再販売価格の拘束一般について,あらためて検討すべき課題のように思われます(流通・取引慣行ガイドラインはこの点について沈黙していますし,担当者による解説書でも触れられていません)。

 第3は,手続的な問題であり,関連する事前相談に対しては迅速に回答する旨,あるいは,企業結合の事前届出において特別の対応を取る旨,表明すべきであったと思います。事務総長の5月13日の定例会見において,質問に答える形で,企業結合の届出は電子メール添付の方法でよい(押印した原本の提出は後日でよい)とする取扱いを既に行っている旨説明されていますが,何らかの方法で公表されてしかるべきであったと思われます。
特に第2の点に関連して,緊急事態の下での企業間協力や事業者団体活動に関する明確なメッセージを発信する必要性や有用性は,特に日本の独占禁止法の実体規定や公正取引委員会の実務からみて,諸外国以上に高いと考えられます。日本の独占禁止法は,事業者団体活動に対して事業者の共同行為よりも厳しい規定を持っています。また,公正取引委員会のいわゆる「ガイドライン行政」の下で,違反行為の未然防止を重視したガイドラインが作成されるとともに,事前相談が奨励され,その回答においては「問題となるおそれがある」というフレーズが多用されてきました。近年,変化はみられるものの,独占禁止法コンプライアンスを心掛ける事業者・事業者団体ほど,独占禁止法リスクを考慮せざるを得ないという状況が依然としてみられます。
公正取引委員会は,業務提携に関するガイドラインを未だに作成することができていません。20年近く前に実態調査が行われ,業務提携ガイドラインを作成する旨表明されていたにもかかわらず,長い時間が過ぎてしまいました。競争政策研究センターの検討会の報告書という形でありますが,昨年7月に検討成果が公表されたことは歓迎すべきであり,それを更に進めて,事業者間協力行為に関するガイドラインとして成文化されることを強く願っています。

 

 

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