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  • 2020/05/19
  • コラム
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会長コラム更新【2019年度における独占禁止法・競争政策の動向についての雑感】

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【2019年度における独占禁止法・競争政策の動向についての雑感】
 競争法研究協会会長 栗田 誠
〇独占禁止法の法執行においては,法的措置を採るのはハードコア・カルテルと再販売価格維持行為に限定し,その他の行為類型については確約手続の活用を含め,迅速な問題解消を優先する傾向が益々顕著になってきている。また,独占禁止法違反行為は多様であるのに,違反事件として審査対象になる類型は限定されている。確約手続の意義を否定するものではないが,違法性判断基準の具体化・明確化のためには多様な違反行為類型について積極的に法的措置を採ることが不可欠である。しかし,命令取消訴訟のリスクやコストを考えると,代替的な手法を用いることが合理的という判断なのかもしれない。

〇排除措置命令・課徴金納付命令の件数は依然低い水準であるが,課徴金額が大きな価格カルテル事件(アスファルト合材,飲料缶)が相次ぎ,単年度として最高額になったとみられる。近年,課徴金賦課の総額が低水準にあっただけに,2019年度のような高水準が今後も継続するのか,注視したい。

〇企業結合に関しては,企業結合ガイドラインの重要な改正がなされ,また,手続対応方針においても,届出基準を満たさない事案に対する対応が示され,実際にもそれを先取りするような審査事例(エムスリー/日本アルトマーク)が出るなど,新たな動きがみられた。また,新型コロナウイルス問題に対応した企業結合の動きが今後表面化してくると思われ,公正取引委員会の真価が問われる。

〇新たなガイドラインとして,デジタル・プラットフォーマー(DP)を巡る消費者優越ガイドラインが作成され,政府全体のDP問題への取組の中で大きな関心を集めたが,その実際的意義には疑問もある。また,スポーツ事業分野における移籍制限ルールに関する考え方や芸能分野において問題となり得る行為の想定例が明らかにされるなど,人材分野への取組も社会的関心を集めており,競技団体によるルールの見直し等の動きも出てきている。近時,公正取引委員会の活動が活発であり,メディアへの露出も増えているという好意的な評価が目立つが,こうした取組が背景にあると思われる。

〇違反事件の審査ではなく,実態調査を踏まえた問題点の指摘により,事実上改善させるという手法は古くからのものではあるが,それが顕著になってきている。この手法に関する法的根拠を整備することが望ましい。

〇公正取引委員会の公表資料において,実質的な記述が乏しいものになってきているのではないか,いわゆるセオリー・オブ・ハーム(theories of harm)がよく分からない,という印象を受ける。今に始まったことではないが,排除措置命令書を読んでも,弊害要件(効果要件)に関する記述は事実上ないに等しい。確約計画の承認の公表資料において,審査対象とされている行為の競争上の弊害の可能性に関する記述はない。唯一,企業結合の公表事例だけは,頁数も多く,要件に沿った記述がなされており,問題解消措置が採られることを前提にクリアされた事案について,どうして排除措置命令を出さないのかと思うくらいである。

〇地域銀行や地方バス会社の経営統合等を巡る議論が独占禁止法適用除外の創設という形で決着したことにはやや驚いた(法案の題名では「適用除外」ではなく,「特例」とされているが)。1990年代に適用除外制度の見直し(原則廃止)を大きな方針として関係省庁と調整を重ねてきただけに,こんなに簡単に適用除外を認めていいのか,という思いはあるが,同時に,限られた分野における,限られた行為類型についての,限られた期間の特例にすぎず,むしろ厄介な案件を抱え込まなくて済む,ということなのかもしれない。

〇公正取引委員会と関係省庁との連携による取組が強化されている(例えば,電気通信サービスに係る総務省及び消費者庁との連携〔令和元・10・1公表〕)。こうした連携は,縦割りを排し,それぞれのリソースや権限を有効活用し,大きな成果を上げることにつながる面もあるが,同時に,公正取引委員会の独占禁止法執行を制約する面がないとはいえないであろう。9月にも就任される古屋一之新委員長の下で,公正取引委員会は益々連携・調整型のスタイルを採用していくのかもしれない。

(注)栗田会長の個人的な見解をまとめたものです。

 

 

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