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  • 2020/05/08
  • コラム
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栗田会長のコラム 「ICNのCAPテンプレート」

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ICNのCAPテンプレート

競争法研究協会会長
栗田 誠

  競争法分野における国際協力の重要性が指摘されて久しい。筆者が公正取引委員会(公取委)の国際担当をしていた1990年代初頭とは隔世の感がある。国際執行協力のための協定やMOU(覚書)が多数締結され,実際にも企業結合事案をはじめとして執行協力が実践されていること,新たに競争法を導入しようとする法域や設立間もない競争当局に対する競争法整備支援が活発に行われていることに加えて,2001年に創設されたICN(International Competition Network)が活発な活動を展開していることもその現れである。

 ICNは,WTOにおいて競争法を取り上げることに消極的であった米国が提唱して,競争法の実体面・手続面の収斂を目指して発足した競争当局間のネットワークであり,常設の事務局を持たず,参加競争当局の貢献を基にして自発的に活動するヴァーチャルな組織である。公取委も,当初からのメンバーとしてICNの活動に積極的に参画してきており(公取委委員長はICNの運営委員会メンバーである),このことは公取委当局も常々強調されていることである(注1) 。例えば「公正取引」誌(公正取引協会発行)には,しばしばICNに関する記事が掲載されている(注2) 。
近時のICNにおける最大の成果は,「競争当局の手続に関するICNフレームワーク(ICN Framework on Competition Agency Procedures)」の発足であろう(2019年6月5日にパリで発足会合が開催された)。CAPと略称されているが,競争当局の手続における公正性に関する基本原則を付属文書とするとともに,競争当局の参加手続,参加当局間の「協力手続」及び「レビュー手続」を定めている。協力手続として,手続問題について関係競争当局間で対話をするメカニズムを設けており(参加や対話は任意である)また,レビュー手続の一環として,参加競争当局はその手続について,定められた様式・項目の「テンプレート」に記述して公表する義務がある。
CAPの発足に際しては,多くの競争当局がプレス・リリースを出しているが,なぜか公取委はCAPに対して冷淡な印象を受ける(注3) 。そして,最大の問題は,公取委がCAPのテンプレートを公表していないとみられることである(注4) 。CAP参加の競争当局は,参加から半年以内にテンプレートを作成してCAPの共同議長(オーストラリア競争消費者委員会,ドイル連邦カルテル庁及び米国司法省反トラスト局)に提出する義務を負っており(CAP 3. a)),2019年8月現在,72の競当局が参加しているが,2020年5月7日現在,50の競争当局のテンプレートがICNのウェブサイト上で公開されている。主要国・地域の競争当局が含まれることは言うまでもない。

 (注1)  吉成量平「ICNの概要及び公正取引委員会の取組について」公正取引820号(2019年2月)3頁。

  (注2)公正取引協会ウェブ上の「公正取引Web」において「ICN」で検索すると,339件ヒットした(2020年5月7日アクセス)。最近のものとして,「特集 国際競争ネットワーク(ICN)」公正取引820号(2019年2月)所収の諸論稿,吉成量平「国際競争ネットワーク(ICN)第18回年次総会について(2019年5月15日~17日/於コロンビア・カルタヘナ)」公正取引827号(2019年9月)57頁。

  (注3)山田昭典事務総長は2019年5月15日の定例会見でICNの概要を説明しているが,CAPには全く言及していない。わずかに,2019年12月18日の定例会見において国際関係を説明する中で,「本年の主な取組として,5月に設立された『競争当局の手続に関するICNフレームワーク』の創設に積極的に携わるとともに,我が国も創設メンバーとして加盟いたしました。」と述べている。また,吉成・前掲注2では,ICNの2019年総会の特別プロジェクト「競争当局の手続に関するフレームワーク(CAP)への参加促進」を紹介する中で,CAPの概要を注書きするにとどまる(58頁)。

  (注4)2020年5月7日にICNのCAPの関するウェブサイト(https://www.internationalcompetitionnetwork.org/frameworks/competition-agency-procedures/cap-templates/)で確認した。また,公取委の英語ウェブサイト(https://www.jftc.go.jp/en/int_relations/icn.html)では,”forthcoming”とされている。
 
 公取委がCAPテンプレートの公表を遅らせているとすれば,思い当たる理由は,2019年独占禁止法改正に際して部分的な導入が合意され,現在,パブコメ中の弁護士・依頼者間秘匿特権の公取委規則による制度化を待とうとしているのではないか,ということである 。CAPの基本原則のi)のⅲでは,各参加競争当局は,関連法令に従い,弁護士・依頼者間秘匿特権を含む法的特権を認識し,保護される情報の取扱いに関する規則・ガイドラインを定めるよう勧奨される旨明記されているからである。
しかし,参加競争当局は,関連法令の範囲内でCAPのへの適合を求められるが,CAPは拘束的なものではなく,参加競争当局に義務を負わせるものではない(CAP 1のi))。また,参加に当たっては,基本原則の一部に適合できない旨の申出をすることもできる(CAP 1のj))。したがって,手続規定や運用実務が改正された段階でテンプレートを改訂すればよく,CAPメンバーのテンプレート公表義務を履行しない理由にはならないはずである。
2019年改正独占禁止法が施行されるのは本年秋であろう。5月にロサンジェルスでの開催が予定されていたICNの2020年総会は,現時点では9月開催の可能性が模索されているようである。次回ICN総会までに公取委のCAPテンプレートは公開されるのであろうか。

 

 

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