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  • 2020/01/06
  • コラム
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栗田会長より年頭のご挨拶

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2020年の年頭のご挨拶
競争法研究協会
会長 栗 田 誠
 新年明けましておめでとうございます。年頭に当たり,一言ご挨拶を申し上げます。
 2019年における独占禁止法の動きを振り返りますと,デジタル・プラットフォーマー問題に焦点が当たった年であったといえます。EUにおいて先行した動きがあり,それに追随するという面もありますが,「優越的地位の濫用」規制を重要な手法とするなど,良くも悪くも日本独自の展開がみられます。12月17日に「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」が作成され,また,「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」及び「企業結合審査の手続に関する対応方針」が改定されました。間もなく召集される通常国会には「デジタル・プラットフォーマー取引透明化法案(仮称)」が提出される予定であり,その具体的な内容が注目されます。
 こうしたガイドラインの作成・改定における意見募集や政府の「デジタル市場競争会議」等におけるヒアリングにおいても明らかになっているように,政府や公正取引委員会が進めようとしているデジタル市場を巡る競争政策に対しては賛否が大きく分かれています。デジタル市場におけるルール整備や法規制が必要であるとしても,その根拠法や手法を巡っては様々な意見があり,収斂をみていません。あらゆる経済活動を対象とする独占禁止法がデジタル・プラットフォーマー問題に一定の役割を果たし得ることは当然としても,独占禁止法が中心的な手段として適切かつ実効的であるのか。特に,優越的地位の濫用の規定が競争法規制としての正統性をどこまで持ち得るのか。また,いわば上からのルール形成として出来上がる具体的な規律がイノベーションを阻害することとならないのか。
 EUやその加盟国における動きをみると,個別具体的な事例の蓄積や実態把握の取組が先行しています。それに対して,我が国における取組は海外の動きに触発された急ごしらえのようにもみえ,実態把握や理論的検討が後追いになっている印象を拭えません。デジタル競争市場の特性を考えると,走りながら考えることにならざるを得ないとしても,一時的な熱狂に踊らされたり,成功者を叩くことに堕したりするようなことがあってはなりません。2019年7月の「『競争とデジタル経済』に関するG7競争当局の共通理解」に示されている,①イノベーション及び成長に関するデジタル経済の恩恵, ②既存の競争法制の柔軟性及び妥当性,③競争唱導活動及び競争評価の重要性,④国際協力の必要性という基本的な考え方に沿って取り組んでいくことが求められています。

 2019年におけるもう一つの大きな出来事として,課徴金制度及び課徴金減免制度の改善を主たる内容とする独占禁止法改正が実現したことが挙げられます。この改正は,事業者による調査協力を促進し,適切な課徴金を課すことができるようにすることを目的としており,ハードコア・カルテルに対する規制がより実効的なものとなることが期待されます。2020年秋に予定されている改正法の円滑な施行に向けて,公正取引委員会はその準備に万全を期す必要がありますし,事業者側(法曹を含む)においても改正への対応が求められています。特に,公正取引委員会規則により整備することとされている弁護士・依頼者間秘匿特権への対応について,制度面・運用面の工夫が不可欠です。
 2019年改正が実効的なサンクション制度の構築に向けた大きな一歩であることはいうまでもありませんが,同時に,2017年4月に公表された「独占禁止法研究会報告書」の提言内容の多くが見送られていることも指摘しておかなければなりません。加えて,私的独占や不公正な取引方法の一部の類型に係る義務的課徴金制度が法執行に歪みをもたらしていることが指摘されているにもかかわらず,改善に向けた検討自体が先送りされていることには懸念を覚えます。ハードコア・カルテル以外の違反行為類型に対する法適用を回避するという方針が事実上採用されているともみられる中で,ハードコア・カルテルに対する課徴金・課徴金減免制度だけが複雑化していくことには疑問もあります。
 ここ数年,ハードコア・カルテル規制の低迷が指摘されてきましたが,2019年には巨額の課徴金の納付を命ずる事案が複数みられたことも特筆されます。また,11月には医薬品納入を巡る入札談合事案に対する犯則調査が開始されており,ハードコア・カルテル規制が公正取引委員会の最優先課題であることをあらためて印象付けるものといえます。反面,規制産業における排除行為,知的財産権の濫用的行使等に対する規制が依然として停滞している状況に変わりはありません。あらゆる経済取引を対象とする独占禁止法が多様な行為類型,新規の行為態様にも果敢に取り組むことを期待したいと思います。

 古くからの問題も新たな課題も山積しています。競争法研究協会では,本年も多様なテーマについて多彩な講師をお迎えし,活動してまいります。本年も競争法研究協会にご支援いただきますようお願い申し上げ,年頭のご挨拶といたします。

 

 

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