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  • 2019/10/28
  • コラム
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栗田会長のコラム「韓国及び中国の競争法コミュニティの勢い」

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(2019.10.25第32回事例研究部会冒頭 会長挨拶)
韓国及び中国の競争法コミュニティの勢い
競争法研究協会
会長 栗 田 誠

1 今回の事例研究部会では,紋谷崇俊弁護士にデータ保護法制についてご講演を賜り,理解を深めます。私からは,先週末(10月19日)に韓国・ソウルの延世大学で開催されました「アジア競争協会(Asia Competition Association: ACA)」の年次会合に参加してまいりましたので,韓国・中国の競争法についていくつか紹介や感想を申し上げることで冒頭のご挨拶といたします。

2 ACAは,今から11年前にソウルで開催された競争法の国際カンファレンスを機に,韓国・中国・日本の研究者・実務家が東アジア地域の競争法の発展と収斂を目指して設立した団体です。日本には独占禁止法弁護士を中心とした「競争法フォーラム」という実務家組織がありますが,競争法フォーラムがACAの団体メンバーになっています。ACAでは,年1回3か国の持ち回りで,大学施設等を利用して年次会合を開催しています。今回,日本からの参加者は10名に達しませんでしたが,韓国からは多くの研究者や実務家が,ACAのメンバーではない方も含めて出席しており,また,中国からは約30名が参加しました。日本からの参加者はかなり固定的ですが,韓国や中国からは新しいメンバー,若い参加者も多く,いずれも大変流暢な英語で,内容的にも大変優れた報告やコメントを発表しています。また,両国とも,女性の参加者が多いことも指摘できます。
  今回主催の韓国サイドでは,韓国公正取引委員会(KFTC)から,この9月に就任されたばかりの委員長(女性)が開会の挨拶をされ,常任委員が法執行状況を報告されるなど,毎回ACAに大変力を入れています。中国で開催されるときも同様で,毎回,競争当局のトップないしは準ずる幹部が出席されています。来年は日本で年次会合を開催する番であり,今後,その準備を進めることになります。

3 韓国では,相変わらずKFTCが活発な法執行活動を行っており,それに対しては行政訴訟も多数提起され,解釈が具体化・明確化されています。特にKFTCは「独占規制及び公正取引法」という基本となる競争法以外に多数の特別法や消費者法を所管していることもあり,全体で毎年3000件以上の様々な事件を処理しており,2018年には排除措置命令277件,課徴金納付命令181件と,日本の公正取引委員会(JFTC)とは正に桁違いの多さです。このため,民事訴訟その他の手段による当事者間の解決を促すための方策が検討されています。
  今回の年次会合での大きな関心はデジタル時代の競争法ということでしたが,韓国では企業結合ガイドラインが改訂済みであり(日本では現在意見募集中),国内売上高だけでなく,当該企業結合の取引額を指標に事前届出の基準を設定するための改正法案も国会に提出済みです。

4 中国では,かつての競争当局が鼎立し法執行を分担する体制から,(旧)国家工商管理総局を母体とする国家市場監督管理総局(SAMR)による一元化した体制に移行しました。また,省や直轄市にはそれぞれの市場監督管理局(AMR)が設けられており,先進的な省・直轄市では競い合って独占禁止法の運用を強化している状況にあります。この9月から新しい3つの暫定規則(独占合意,市場支配的地位濫用,行政独占)が発効して運用態勢が固まってきています。支配的地位濫用規則には,シェアの計算方法,支配的地位認定の考慮事項等に関して,デジタル経済に対応した内容も盛り込まれています。なお,中国独占禁止法の最新動向については,来月の月例研究会において川島富士雄教授からご報告をいただく予定です。

5 実体面について,いくつか議論を紹介しますと,企業結合規制に関しては,企業結合の事前届出を怠ったまま統合手続を進めたり,当事会社間で情報交換をしてしまったりするという,いわゆるガン・ジャンピングが大きな議論となりました。日本では法的措置に至った事例はありませんが,韓国や中国では多数の事例があり,制裁措置が発動されています。
  排除行為その他の単独行為に関しては,私的独占(日本)又は支配的地位濫用(韓国)の他に不公正な取引方法の規定を有する日韓と,そうした規定を持たず支配的地位濫用のみの中国という法制上の違いがあります。ただし,中国には反不正当競争法(日本の不正競争防止法に相当)があり,行政的に執行されており,同法改正の際に「相対的優位の濫用」の禁止規定を設けるべきという議論もありました(採用されず)。また,運用面でも,日本では,不公正な取引方法の法的措置は年に1~2件にすぎませんが,韓国では,審査件数が200件以上に上り,排除措置命令や課徴金納付命令が出る事件が10件以上あるようです。韓国では,審査中の問題行為を迅速に停止させるための「暫定命令」制度も検討されているようです。

6 私は,手続に関するセッションで報告しましたが,3か国とも執行手続に問題を抱えています。韓国では,Qualcomm事件の審査手続を巡って,米国から米韓自由貿易協定の競争章の規定に基づく正式な協議要請を受けています。中国独占禁止法の手続に関しては,以前から米国商業会議所などが厳しい批判を加えてきており,米国競争当局も度々問題を提起してきています。今回,私の報告では,日本の公正取引委員会の手続について,不十分な透明性,特に排除措置命令書に競争効果に関する記述がないこと,法的措置ではなく,自発的改善措置による審査終了,実態調査を基にした改善指導その他の非公式措置に過度に依存していることの問題点を指摘しました。
  競争当局の手続的公正と透明性の確保に関しては,以前にも紹介しましたICNのCAP(競争当局の手続に関する枠組)が発効し,その実施メカニズム(手続問題に関する当局間協議)が注目されます。また,OECDでは,競争法の手続に関する理事会勧告の採択に向けて米国が積極的に動いています。現行独占禁止法の行政的執行手続は日本の普通の行政法の枠組(「行政手続法」や「行政事件訴訟法」)に沿ったものですが,国際標準の競争法執行手続は競争法の特性や機能,違反に対する措置等を反映した特有のものになっていると思います。今後,2013年改正による審判廃止後の現行手続,2015年改正で導入された確約手続,さらに,今後公正取引委員会規則により導入される限定的な弁護士・依頼者間秘匿特権の仕組みなどがあらためて評価されることになると考えています。

7 今回ACAの年次会合に出席して,あらためて韓国や中国の「競争法コミュニティ」の勢いを感じました。韓国の公正取引法は40年弱,中国の独占禁止法は10年余りの歴史であるのに対して,日本の独占禁止法には70年以上の歴史がありますが,先行者の優位性はとうに失われているようです。明日は「日本経済法学会」の年次大会が東洋大学で開催されますが,研究者中心の,欧米の動きにばかり目を向ける時代は終わったと思います。広い視野に立ち,理論と実務を繋ぎ,また,企業のニーズにも応えられるような競争法研究協会でありたいと考えています。

 

 

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