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  • 2019/07/12
  • コラム
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独占禁止法は法か政策か

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独占禁止法は法か政策か

競争法研究協会 会長   栗 田 誠

1 初めて競争政策研究部会に出席します。今回は,上杉秋則先生にGAFAを巡る独禁法問題についてお話しを伺います。いわゆるデジタル・プラットフォーマーを巡る問題については,公正取引委員会が経済産業省や総務省と共に「検討会」を設け,また,政府全体としても「未来投資会議」というトップレベルの会合で議論がなされ,「成長戦略」の重要な柱として様々な施策が展開されようとしています。そうした包括的な取組の一環として,独占禁止法による規制も位置付けられているといえます。見方によっては,独占禁止法がデジタル・プラットフォーマー問題に対する政府の取組の一手段として位置付けられ,活用されているともいえるわけです。

2 独占禁止法は本来的に「政策志向」の法であるといえます。独占禁止法を学び始めると,「これで法といえるのか,政策にすぎないのではないか」と戸惑うことがあります。例えば,電気通信,エネルギー等の規制産業における支配的事業者に対する規制が典型です。これらの規制業種では,事業規制法が支配的事業者に対する様々な特別規制を設けていることがあり,独占禁止法規制と重なる面があります。また,規制当局においても,競争促進を重視した政策を標榜する動きがみられます。一つの行為について,事業法と独占禁止法の両方が適用され得るのであり,規制当局と競争当局(公正取引委員会)の判断が矛盾・抵触することも起こり得ますし,規制される側からは,過重な二重規制であるという不満も出てきます。少し内容的には異なりますが,近時の地域銀行の経営統合や乗合バスの共同経営を巡る独占禁止法の特例を設ける提案も同じようなインプリケーションを含んでいます。
  もう一例を挙げると,近年における優越的地位濫用規制にも独占禁止法の政策的側面が強く現れていると思います。「競争法」としての独占禁止法における優越的地位濫用規制の位置付けについて,私はやや懐疑的であり,「経済法」の一環としての立法が望ましいと考えています。また,例えば,デジタル・プラットフォーマーによる取引先事業者に対する取引条件の一方的改変も,ユーザーからの個人情報の吸上げも,何でも優越的地位濫用の観点から取り組もうとしている現状(打ち出の小槌としての優越的地位濫用規制)には疑問を感じています。優越的地位濫用規制がその時々の取引関係を巡る課題に柔軟に対応してきたことは紛れもない事実であり,政治的にも強い支持があることは明らかです。こうした中で,非公式な措置による決着も含めて優越的地位濫用規制をどのように活用していくのか(あるいは,適切な自制を働かせるのか),それとも,別途の方策を考えるのかが問われていると思います。

3 優越的地位濫用規制は,大変間口が広く,打ち出の小槌のような面がありますが,同時に,違反が認定されると,1回目の違反から取引額を計算基礎とする課徴金の対象になるわけで,大変厳しい規制でもあります。公正取引委員会において,従来であれば拘束条件付取引といった行為類型の問題として考えられてきたような事案が優越的地位濫用の事案として取り上げるように変わってきていないか,注視する必要があると考えています。例えば,立入検査の際の告知書に優越的地位濫用も併せて記載されていないか,また,当初は優越的地位濫用が入っていなくても途中からその適用も検討されるようになった場合にどのように事業者に告知されるのか,といった手続的な課題もあります。事業者側としては,1回目の違反から課徴金がかかる違反として認定されるおそれがあるということは相当なプレッシャーになるのではないか。そうすると,昨年暮れに導入された確約手続による決着が現実的な選択肢となってきます。要するに,公正取引委員会と事業者との一種のバーゲニングにおいて公正取引委員会が過度に有利な立場に立つこととなるおそれがあると思います。
 先週,韓国では,アップルが韓国の公正取引委員会に携帯電話会社とのiPhone取引を巡る公正取引法違反事件について「同意議決」の申立てを行ったと報じられています。アップルとしては,何ら問題があるとは認識していないが,課徴金を課されるおそれ等を考慮した末の苦渋の判断であると考えられます。同様の問題について日本の公正取引委員会は昨年7月に,アップルが契約の一部を改正することから問題は解消されるとして審査を打ち切っていますが,関係法条として拘束条件付取引が挙げられていました。言うまでもなく,拘束条件付取引であれば課徴金の対象ではなく,公正取引委員会の交渉ポジションは弱いといえるのかもしれません。

 

 

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