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  • 2013/11/06
  • コラム
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平成25年10月9日 第211回 月例研究会にて

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 最近、独禁法関係で1番重要な問題は、今年の5月に公取委が独禁法の改正法案を出したことです。この法案の内容は、今から3年前になりますが、2010年3月に出した法案とほぼ同じ内容です。どのような内容かといいますと、2005年の独禁法改正以前には、独禁法の事前審判手続、つまり、処分をする前に被処分者が争った場合は、処分前に事前審判において被処分者の意見を十分に聞くという手続があったわけですが、独禁法の執行力強化の観点から2005年の法改正により、その事前審判制度を廃止して、処分をした後に被処分者の意見を聞くという事後審判制度に変えています。憲法第31条は、何人も適正手続によらなければその生命財産を又は自由を奪われないと規定し、行政手続き法は重要な危害を毀損する場合には事前聴聞を規定しており、この改正点は国会の審議でも問題になり、改正法の附則13条で政府は2年以内にこの点の見直しをする条項か付けられました。そして、内閣府に独占禁止法基本問題懇談会が設置されました。この懇談会の報告書が2007年6月に出ました。その報告書は、「独禁法違反事件のように事業者の活動に重大な不利益を与える措置を採る場合には、被処分者に対し事後審判方式ではなく、準司法的な事前審査型審判方式を採ることが適切であるので、一定の時期が経過した後、事前審査型審判方式を採用する必要がある」という提案を行いました。公取委はこの提案を事実上拒否して、2010年に出したのは、事後審判手続を廃止する法案であり、そこでは行政処分の前には2005年改正後の現行法の「意見陳述手続」と実質的に変わらない「意見聴取手続」を採るだけであり、内閣府懇談会の提案した準司法的な事前審査型審判方式は採用されず,証拠による中立的な事実認定の制度は排除されていました。この法案に対しては50名を超える独禁法学者が内閣府懇談会の提案した事前審査型審査方式を無視するものとして反対し、全国消費者団体連絡会も同様の理由で反対しています。この法案は、その後国会では実質的に審議されることなく、2012年11月の衆議院解散により廃案になったのですが、本年5月24日に公取委は再度この法案を国会に提出しています。それから、「公正取引情報」に出ていたのですが、米国通商代表部(USTR)の本年度の不公正貿易報告書には日本の独禁法改正で事前聴聞手続が削除され、憲法の適正手続(デュープロセス・オブ・ロー)の原則に違反する疑いがあるとしています。適正手続は民主主義の基本に関する原則であるので、この批判は十分に考慮する必要があると思います。この情報については,外務省に問い合わせましたが、確かな情報です。独禁法の基本手続きが米国・欧州連合と対立していると言うことは極めて重大なことだといえると思います。日本の企業としてはこの独禁法の手続が米国・欧州連合と異なり被処分者に不利にされていることに十分留意する必要があると考えます。

 米国では以前から独禁法の執行手続を非常に重視し、処分をする前にはっきりと事前聴聞制度をとって、裁判手続と同じように、審査官の集めた資料については、原則的にすべての資料を被処分者に閲覧させて、それを証拠として利用することができるという手続を採って、準司法的な手続になっています。欧州連合も以前から事前聴聞権を基本権として被処分者に認めていましたが、ご存じのとおり欧州連合では独禁法違反の制裁金が90年代から著しく高額になり、産業界がそれに対して非常に反発して、「手続を公正にしてほしい」と主張し、結局2011年10月に違反事件審査手続に関する「ベストプラクティス」という通達を欧州委員会が出しましたが、その手続の内容は米国の連邦取引委員会の手続とほぼ同じになっています。審査官は法律で強制調査権を与えられていますが、審査においてはできるかぎり相手方の了解を取って審査するようにし、相手方に違反事実を自白させることは禁止され(自己負罪拒否権)、供述に際しては弁護士同伴が許容され(弁護士同伴権)、供述調書のコピーは入手でき、審査中に上級審査官や審査局長と面会し質疑を交わすことが保障され、和解手続(同意命令手続)の機会が与えられ,処分案を争う場合には処分前に事前聴聞権が与えられて証拠に基づく事実認定の権利か与えられ、審査官が収集した資料はすべて閲覧し証拠として利用することができ、審査・聴聞手続の重要な段階で審査官等と質疑応答する機会が与えられ、事前聴聞の主宰者(聴聞官)は審査関係者や上級職員からの独立性が保障されており、審査・聴聞の全課程を等して当事者は対話と協議により審理手続きが進められるとされており、詳細な手続き規則が公表されています。問題は、市場経済の関係事業者は対立と強調の中で事業活動と競争を行っており、その行動の認定は極めて複雑であり、審査官が一方的に資料を評価し事実認定を一方的に行うことは適切でなく、市場の経済実態に即して事実認定を行う必要があるからであるので、相手方に対して最大限の弁護権を当てています。市場経済の場合には、関係事業者というのは、ある面からみると、よくカルテルなどで同業者がみんな集まって協調して値を上げることばかり考えるとうことですが、反対の側面から見ると、同業者はみんなライバルで敵対しています。ですから、対立と協調と両方あって、資料の見方や評価の仕方というのは非常に難しいわけです。それを審査官の一方的な視点で見るのは問題であり、被処分者もすべての証拠について閲覧して評価することが認められています。米国でも欧州連合でも関係資料を全部当事者に公開して、それを利用できるという形にして、その証拠でもって客観的・中立的に事実認定をするということになっています。米国の反トラスト局長は手続を公正で透明にすることは被処分者の防御権を守るためだけではなく、複雑な市場経済の秩序を守る独禁法の執行手続をすべての市民に信頼されるためにその公正性の保障が必要であり、そのためには独禁法の行政処分をする前に相手方の意見を十分に聞く必要があると述べており、日本の2005年の執行力強化のために処分前に相手方の意見を聞かないという考えとは逆の考えを述べています。日本の場合、独禁法執行手続において被処分者の意見を聞くという事前審判制度を2005年改正で執行力強化のために否定し事後審判制度にしたのです。このような面でいうと独禁法の手続は非常に重要な問題で、実体規定の改正よりも今度の手続の改正のほうが重要です。今回の改正法案がそのまま通れば、準司法的な独禁法の事前審査型審判方式が長期的に否定されることになり、そのことはわが国の独禁法が米国や欧州連合の独禁法と異なり、市場経済の経済実態に沿った準司法的で民主的な手続と相反する手続で公取委の意のままに執行される独禁法になるからです。ですから、現在国会に提出されている独禁法改正法案の問題については、独禁法の実際の適用を受ける皆様方が是非強い関心をもっていただきたいと思います。

 

 

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